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疎外と温もり
⑥
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「そろそろ休憩しようぜ?」
「ダメだよ、まだ頑張らないとさ…」
「まだ時間はあるんだ。そんなに追い詰めてたら先が思いやられるぜ?」
「そうだけどさ、このままじゃダメだろ…」
焦る空翔の背後へ回った大地は、そのまますとんと座って、そのまま空翔を背中から抱きしめた。
「だっ、大地!?休憩って…もしかして…」
「なぁに期待してんだよ。最近部活と勉強で空翔補充してなかったから、補充~」
そう言って大地は悪戯っぽく笑い、空翔の首元に顔を埋めて首筋にキスを落とした。
「わ、大地、なにするんだよっ…最近、部活も忙しかった?」
「まあな、俺が入って去年よりチームが強くなったから大会も勝ち進めるようになったんだぜ?」
「すごいじゃん。やっぱり大地は…すごいな…」
空翔の口からぽろっと出た言葉に、大地は思わずムッとした。
「なんだよ。それって俺がαだからか?」
拗ねる大地に空翔はその姿勢のまま首を強く横に振った。
「違うよ、大地だからすごいんだ。小さい頃からずっとお前のこと見てきたんだぞ。大地のすごさは、この俺が一番よく知ってる」
そう言って空翔は更に一言呟いた。
「だから好きになったんだし…」
その呟きに大地の頬は一瞬にして燃え上がるように真っ赤になった。
「空翔~、お前はいつからそんな誘惑上手になったんだよ~!」
そう言って大地は空翔の脇腹を擽り始めた。
「は?誘惑なんてしてないしっ、ちょ…やめっ、あはは!」
後ろから擽り続けられて、空翔は込み上げてくる笑い声を抑えることができなかった。
傍から見ていたら昔と変わらないじゃれ合いのはずなのに…空翔は座ったまま首を後ろに倒して大地を見上げた。
「まったく、急に擽んなよなぁ」
少し髪の乱れた空翔が笑顔で言った。
大地は、それを「きれいだ…」と思ってしまった。
その空翔の顔が、自分にとってなにものよりもきれいに見えてしまう。
その気持ちを抑えられなかった大地は、空翔の頬を両手で包み、逆向きのまま空翔の唇に自分の唇を重ねた。
「…っ」
しばらく重ねた唇を離せば、空翔は大地の顔を見つめて頬を同じく真っ赤に染めた。
「やっぱ俺、お前のこと好き…すげえ好き…」
真顔の中に僅かな照れを滲ませた大地は、空翔を見つめながら言って髪を撫でた。
「俺も好きだよ…好きだけど…」
「けど、なんだよ?」
大地は歯切れの悪い空翔の言葉を訝しんだ。
いつもなら、こう尋ねられると慌てる空翔だったが、今回はただゆっくりと首を横に振った。
「ううん、なんでも。俺も好きだよ。本当に…大地が好き」
この気持ちに変わりはない。
けれど、ここ最近の出来事を振り返ると「好き」という言葉を口にするのが、こんなに重いことだなんて思ってもみなかったし、それは大地がどれほど「大丈夫」と言ってくれたとしても、変わることのない重さだとも感じた。
「さ…勉強再会しよ?このままじゃ大地とどんどん順位の差が開いちゃうし」
「そうだな。お前の成績下がったら俺だって責任感じるしな」
大地は笑っていた。
笑っていたけれど、勉強に戻ると度々空翔の顔をじっと見ていた……。
……
こうして空翔のテスト勉強という試練が始まった。
大地と居る時は分からないところを教えてもらい、ひとりで居る時も可能な限り勉強に時間を費やした。
みな実もそれに感化されてか、ひとりで居る時や、友達とのおしゃべりも問題を出し合うなど、勉強に向けての内容へと変えていった。
瞬は、状況が変化する中でも変わらず読書をしていた。
薬の多量服薬はしていないため顔色は良くなったものの、トイレで倒れて以来人と距離を置くようになりひとりでいることが多くなった。
はじめはそれを空翔もみな実も気にしていたけれど、それぞれが自分のテスト勉強に集中するようになってからは本当に誰とも話さなくなってしまった。
「大地、帰ろう?」
テストも目前になったある日の放課後、空翔は大地に声をかけたが大地は申し訳なさそうにしていた。
「悪ぃ、空翔!今日はちょっとサッカー部の奴らと話してから帰るからさ、先帰って勉強しててくれるか?」
「え、うん。それなら仕方ないね。でも、こんなテスト前に部活の話し合いなんてあるの?」
「テスト明けの練習試合のこととか…ちょっとしたことだけど話しておきたくてさ」
「そっか。じゃあ先に帰るよ」
「おう、俺もすぐ帰るから」
そう言って空翔と大地は昇降口で手を振って別れた。
けれど、大地はそこからサッカー部員のいる場所へとは向かわなかった。
大地が真っ先に向かったのは図書室だった。
「待てよ」
大地が話したいと思っていた相手は、ちょうど図書室に入ろうとしたところだった。
大地に声をかけられてふり向いたその相手は瞬だった。
瞬は図書室の扉を開けようとした手を止めて大地に顔を向けた。
「大地くんか。どうかした?」
そう言って大地の顔を見た瞬は…笑顔だった。
でもその笑顔はどこか、すぐに消えてしまいそうな儚く、哀しくも見えた。
そんな笑顔を見た大地は、自分から声をかけたというのに戸惑ってしまった。
空翔がつらい思いをしていた時に時折見せた笑顔に、似ていたから。
「…大地くん?」
「あ…あぁ、悪ぃ。ちょっとお前と話がしたいと思ってさ。少しだけ、時間いいか?」
「でも、僕、勉強したいんだけど」
「少しだけでいいんだ。ダメか?」
瞬の前で手を合わせて腰を低くする大地を見た瞬は一度だけ息を吐いて。
「・・・いいよ。少しだけなら。でも、ここだと周りに迷惑がかかるから、場所を移そう」
「わかった。付き合ってくれてありがとな」
にっと笑顔を見せて答える大地に、瞬は無言で一度だけ頷いて、図書館のすぐ横にある誰もいない購買の休憩スペースにやって来た。
「ダメだよ、まだ頑張らないとさ…」
「まだ時間はあるんだ。そんなに追い詰めてたら先が思いやられるぜ?」
「そうだけどさ、このままじゃダメだろ…」
焦る空翔の背後へ回った大地は、そのまますとんと座って、そのまま空翔を背中から抱きしめた。
「だっ、大地!?休憩って…もしかして…」
「なぁに期待してんだよ。最近部活と勉強で空翔補充してなかったから、補充~」
そう言って大地は悪戯っぽく笑い、空翔の首元に顔を埋めて首筋にキスを落とした。
「わ、大地、なにするんだよっ…最近、部活も忙しかった?」
「まあな、俺が入って去年よりチームが強くなったから大会も勝ち進めるようになったんだぜ?」
「すごいじゃん。やっぱり大地は…すごいな…」
空翔の口からぽろっと出た言葉に、大地は思わずムッとした。
「なんだよ。それって俺がαだからか?」
拗ねる大地に空翔はその姿勢のまま首を強く横に振った。
「違うよ、大地だからすごいんだ。小さい頃からずっとお前のこと見てきたんだぞ。大地のすごさは、この俺が一番よく知ってる」
そう言って空翔は更に一言呟いた。
「だから好きになったんだし…」
その呟きに大地の頬は一瞬にして燃え上がるように真っ赤になった。
「空翔~、お前はいつからそんな誘惑上手になったんだよ~!」
そう言って大地は空翔の脇腹を擽り始めた。
「は?誘惑なんてしてないしっ、ちょ…やめっ、あはは!」
後ろから擽り続けられて、空翔は込み上げてくる笑い声を抑えることができなかった。
傍から見ていたら昔と変わらないじゃれ合いのはずなのに…空翔は座ったまま首を後ろに倒して大地を見上げた。
「まったく、急に擽んなよなぁ」
少し髪の乱れた空翔が笑顔で言った。
大地は、それを「きれいだ…」と思ってしまった。
その空翔の顔が、自分にとってなにものよりもきれいに見えてしまう。
その気持ちを抑えられなかった大地は、空翔の頬を両手で包み、逆向きのまま空翔の唇に自分の唇を重ねた。
「…っ」
しばらく重ねた唇を離せば、空翔は大地の顔を見つめて頬を同じく真っ赤に染めた。
「やっぱ俺、お前のこと好き…すげえ好き…」
真顔の中に僅かな照れを滲ませた大地は、空翔を見つめながら言って髪を撫でた。
「俺も好きだよ…好きだけど…」
「けど、なんだよ?」
大地は歯切れの悪い空翔の言葉を訝しんだ。
いつもなら、こう尋ねられると慌てる空翔だったが、今回はただゆっくりと首を横に振った。
「ううん、なんでも。俺も好きだよ。本当に…大地が好き」
この気持ちに変わりはない。
けれど、ここ最近の出来事を振り返ると「好き」という言葉を口にするのが、こんなに重いことだなんて思ってもみなかったし、それは大地がどれほど「大丈夫」と言ってくれたとしても、変わることのない重さだとも感じた。
「さ…勉強再会しよ?このままじゃ大地とどんどん順位の差が開いちゃうし」
「そうだな。お前の成績下がったら俺だって責任感じるしな」
大地は笑っていた。
笑っていたけれど、勉強に戻ると度々空翔の顔をじっと見ていた……。
……
こうして空翔のテスト勉強という試練が始まった。
大地と居る時は分からないところを教えてもらい、ひとりで居る時も可能な限り勉強に時間を費やした。
みな実もそれに感化されてか、ひとりで居る時や、友達とのおしゃべりも問題を出し合うなど、勉強に向けての内容へと変えていった。
瞬は、状況が変化する中でも変わらず読書をしていた。
薬の多量服薬はしていないため顔色は良くなったものの、トイレで倒れて以来人と距離を置くようになりひとりでいることが多くなった。
はじめはそれを空翔もみな実も気にしていたけれど、それぞれが自分のテスト勉強に集中するようになってからは本当に誰とも話さなくなってしまった。
「大地、帰ろう?」
テストも目前になったある日の放課後、空翔は大地に声をかけたが大地は申し訳なさそうにしていた。
「悪ぃ、空翔!今日はちょっとサッカー部の奴らと話してから帰るからさ、先帰って勉強しててくれるか?」
「え、うん。それなら仕方ないね。でも、こんなテスト前に部活の話し合いなんてあるの?」
「テスト明けの練習試合のこととか…ちょっとしたことだけど話しておきたくてさ」
「そっか。じゃあ先に帰るよ」
「おう、俺もすぐ帰るから」
そう言って空翔と大地は昇降口で手を振って別れた。
けれど、大地はそこからサッカー部員のいる場所へとは向かわなかった。
大地が真っ先に向かったのは図書室だった。
「待てよ」
大地が話したいと思っていた相手は、ちょうど図書室に入ろうとしたところだった。
大地に声をかけられてふり向いたその相手は瞬だった。
瞬は図書室の扉を開けようとした手を止めて大地に顔を向けた。
「大地くんか。どうかした?」
そう言って大地の顔を見た瞬は…笑顔だった。
でもその笑顔はどこか、すぐに消えてしまいそうな儚く、哀しくも見えた。
そんな笑顔を見た大地は、自分から声をかけたというのに戸惑ってしまった。
空翔がつらい思いをしていた時に時折見せた笑顔に、似ていたから。
「…大地くん?」
「あ…あぁ、悪ぃ。ちょっとお前と話がしたいと思ってさ。少しだけ、時間いいか?」
「でも、僕、勉強したいんだけど」
「少しだけでいいんだ。ダメか?」
瞬の前で手を合わせて腰を低くする大地を見た瞬は一度だけ息を吐いて。
「・・・いいよ。少しだけなら。でも、ここだと周りに迷惑がかかるから、場所を移そう」
「わかった。付き合ってくれてありがとな」
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