地には天を。

ゆきたな

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疎外と温もり

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外に出ると気まずそうな表情をしたみな実が立っていた。

「あ、空翔くん。大地くん。…瞬くんの様子どうだった?」

恐る恐る訊いてきたみな実に空翔は答えた。

「少し落ち着いたみたいだけれど…まだ元気はなさそうだよ…」

呟くように答えた空翔を見て、みな実は「そっか」と返した。

「じゃあ私まで行ってあれこれ聞かない方がいいかもね、それと…えっと…」

何かを言おうとごにょごにょと口ごもるみな実を、ふたりは不思議そうに見ていた。

「その、大地くん、ごめんね。大地くんは同じクラスにいるクラスメイトなのに昨日、αは最低、みたいな悪口言っちゃって…」

どうやらみな実は昨日の会話でαを悪者にしたことに後ろめたさを感じているようだった。

「いや、俺は直接聞いてなかったし、気にしてもねえよ。それに、αに悪い奴が多いってことは俺だってわかってるから」

「大地…」

みな実よりも空翔が先に名前を呟いて驚いていた。
昨日、あんな風に励ましてくれた大地だったけれど、大地も心の中でそんな風に思っていたのだと。

「本来、βとΩが通うような学校に俺が来て…悪かった…」

そんな風に謝りだすものだから、空翔もみな実もぎょっとして驚いた。

「大地くんはなにも悪くないよ!私は、他のαの人がどうだとしても、大地くんとは仲良くしたいし…」

みな実は先程のようにまたごにょごにょと言った。

「ありがとな、そう言ってくれて。えっと、みな実、って呼んでいいか?」

「うん!もちろんだよ!これからたくさん話せると嬉しいなぁ、よろしくね、大地くん」

大地の笑顔を見て、みな実の頬はほんのり赤くなって、ぱっと破顔した。
すっきりした表情になったみな実は「また明日ね」と言って踵を返した。
そんな大地の隣りで、空翔はむっとした顔になっていた。

「空翔?どうしたんだよ?」

「そんな笑顔さぁ、もう他の人に見せたりしないでよ?」

ツンとした表情で先に歩き出した空翔を見た大地は、ぷっと笑って追った。

「そんな怒んなって~」

「知らない!」

そんなことをやいやい言いながらふたりは学校を出て行った。

……

「瞬くん、どう?帰れそう?」

養護の先生が保健室に戻り、ベッドでぼんやりしている瞬を心配そうに見ながら訊いた。

「帰りますよ。自分で帰らないと、どうしようもないですから…」

そう言って瞬はよろよろとベッドから下りようとした。

「はぁ…止めておきなさい。そんな状態で帰るなんて無理よ。今親御さんに迎えに来てもらうよう電話するから…」

「迎えの電話は入れないでください!」

保健室にある受話器を手に取る先生を瞬は怒鳴るような声で制止した。
先生は受話器を戻して、再び小さなため息を落とした。

「それならもう少し休んでから帰りなさい。但し、もう絶対に決められた以上の量の薬を飲まないって、約束して」

先生は強く言い聞かせるように言ったけれど、瞬は首を縦にも横にも振らなかった。

「と言うより、それだけの薬を飲んでいたら病院で処方を止められるでしょう?病院じゃない場所で、買ったりしているの?」

高校の養護教諭ともなると、今回のようなケースには慣れているようで、怪しい人間から薬を買っていないか聞き取りを始めた。

「そんなこと、話すわけないでしょう」

その一言だけを告げてからは、瞬はもう口を開けず、体調が戻るまでずっとグラウンドが見える窓に視線を送っていた。

「(この子、ものすごく大きなものを抱えている…)」

先生は、瞬の態度を見てそう思った。素直に打ち明けてくれないΩはこれまで何人も見てきたけれど、ここまで他者に対して「見えない壁」を張っている生徒は見たことがなかった。
そう考え込む先生を余所に、瞬はずっと活発な高校生の声が響くグラウンドをずっと見ていた。

……

それ以来、瞬と空翔の関係はぎくしゃくしたまま、自然と疎遠になっていってしまった。
その間にもやって来たテスト期間。
瞬はなぜ薬を多量に服用していたのだろう?
それさえも訊けないままテスト期間は始まってしまったが、最近の瞬は気性が荒くなってしまうようなことは無いし、顔色もよさそうなので、薬は守って飲んでいるなと空翔は安心していた。
テスト期間に合わせて部活は行われなくなったので、空翔は毎日大地と一緒に帰り、そのままどちらかの家で一緒に勉強している。
中学の時は大きな学力の差を感じていなかった空翔だったけれど、高校に入って空翔にとって難しい科目でも大地は簡単に理解をしている。

「空翔、それはxが移行するから、全体から引かれねえと合わねえよ?」

「え…う、うん」

どうしよう、説明をしてくれているのにそもそもの部分がわからない。
ちゃんと授業は受けているはずなのに、復習をしようとしても難しい内容ばかりで空翔は首を傾げてばかりいた。
でも、自分の理解力のなさをΩだからという言い訳には絶対にしたくなかったので、何度も首を振ったり、頬を自分で叩いてみたりして空翔は気合いを入れていた。
大地もそんな空翔にどうにか理解してもらおうと、手を変え品を変え、違う方法でアプローチをしていたが、勉強は難航していた。
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