地には天を。

ゆきたな

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GW編

染みる憎しみ①

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差し込む朝陽に目覚めた空翔。

「ふあぁ…ん、っ…」

あくびをした瞬間に腰に刺激が走り、昨夜の激しさを思い出して赤面した。

「(大地に好きって言って、箍が外れちゃったのかも)」

もっと自重しようと思い、ふと隣を見ると手を繋いだままの大地が眠っていた。

「寝顔は昔のままだ…」

そう呟いて、くすっと空翔が微笑むと、大地はゆっくり目を覚ました。

「ん、空翔、おはよ…」

「おはよう、大地」

まだぼうっとしている大地。
不意に昨夜のことを思い出すとハッとした表情を見せた。

「空翔っ!大丈夫か!?…その…身体とか…」

心配で大きな声を出した大地だったが、その言葉は恥ずかしさと共にすぐ尻すぼみになっていった。

「うん、大丈夫。少し腰痛いけど、まあ、その…俺も色々欲張ったし」

そう言って空翔も頬を赤らめた。
互いに事後の恥ずかしさに頬を染めるも、すぐに表情は笑みを湛えて、「おはよう」の口づけを交わした。
しかし、ずっと甘い空気のままで居られないのが大地の性格で、彼はすぐに切り変えた。

「よっしゃ、んじゃ、今日は思いっきり遊ぼうぜ!」

「遊ぶって、一体どこで?」

この辺りは海と水族館くらいしかない。
一体どこに行くのだろうと首を傾げている空翔に、大地はニヤリと笑った。

……

ふたりは海にさよならを告げて、20分ほど電車に揺られて駅を乗り継いだ。
そこは海のあった場所とは打って変わって、駅の改札を出てすぐ目の前に巨大な複合施設が展開されていた。

「ここから地続きでアトラクションテーマパークとか、アウトレットとかあるんだぜ!」

「本当!?じゃあ今日は…」

「遊ぶことに集中!」

そう言ってニッと笑ったふたりは駆け出してアトラクションが備わっているテーマパークへと向かって行った。
ジェットコースターにフリーフォール、お化け屋敷にも入った。

「ひえっ!」

驚いた拍子に空翔が大地の腕に飛びつくも、甘い空気なんかとは程遠く、大地に笑われてしまった。
空翔も全く気にしていない様子で笑い、そんなこんなで楽しんでいるとすぐ昼になってしまった。

「そろそろ何か食うか?」

「うん、あ…ごめん、その前にちょっとトイレ行ってくる」

広場の休憩スペースで休んでいると、空翔は尿意を催してしまったので急いでトイレへと向かった。

「人が多いな、早く行って戻ろう」

そう思い、案内板を見ながらトイレへ行くもほとんど埋まってしまっている。

「(もう、我慢できない…)」

別のところを探していると、人混みから外れた薄暗く、茂みに囲まれた場所にトイレのような建物があった。
案内板には書いてなかったけれど、古いトイレだろうか?
薄気味の悪さに入るのをためらっていた空翔だったが、もうこれ以上我慢なんてできないと思いそこへ駆け込んだ。

「周りのにぎやかさが嘘みたいに静かだ…」

しんと静まり返ったトイレで急いで用をたし、大地の元へすぐ戻ろうとトイレから出た瞬間に空翔は誰かに腕をぐっと後ろから引かれた。
声を上げる間もなく空翔は、トイレの裏手の茂みへと引きずり込まれてしまった。
すぐに口を塞がれ、手を縛られた空翔は今自分が背の高い男二人に捕まったことを理解した。

「んんんっ!」

口をガムテープで塞がれ、唸ることしか出来ない空翔は誰も通らない茂みの中で押し倒されて一人に腕を掴まれ、一人に脚を押さえられて身動きがとれなかった。

「高校生くらいか?フェロモンまき散らしてのこのこ一人でふらついてるなんてバカな奴だな」

「違いねえな。おら、俺たちがたくさん可愛がってやるよ」

暴力を振るわれながら驚きと恐怖で胸が占められていく現状の中で、空翔はわずかながらの疑問も思い浮かべた。

「(どうして?ちゃんと今朝、抑制剤は飲んできたはずなのに。現に今日ここまで来ても誰一人として変な目で見てきた人なんていなかった。なのにどうして?)」

そんな疑問も芽生えている間にも、二人の男は乱暴に空翔の衣服を脱がそうとする。
必死に抵抗してもビクともしないこの男たちは、フェロモンにも反応したからきっとαなのだと思った。

「(あぁ…きっと…)」

きっとこれが、世間では普通のことなのだろうと空翔は悟った。
大地は優しいからΩを見下さないし、俺と同じ高校に通い、俺の事を受け入れてくれる。
でもそれはαだからじゃなくて、四宮大地というひとりの人間だからだ。

やっぱり、本来の世間のαなんて…。

抵抗したところで殴られるだけだから、と空翔は大人しくなって諦めてしまった。
気付けば足を押さえていた男は、下着も脱がして後孔へと指を乱暴に挿入して解してきている。
さらに男は、もう我慢できないと言うように下半身を晒していた。
その先端を自分の後孔に挿入しようと擦り付けてくるだけで、空翔は吐きそうになった。

「(こいつ、このまま入れる気だ…)」

・・・世間では、Ωが人通りの少ない場所へ拉致され、αに強姦されて望まない妊娠をして中絶に至ると言うニュースが毎日、当たり前のように流れている。
でも、まさか自分がその当事者になるなんて空翔は思いもしていなかった。
世間の事件での被害者は泣き寝入りするパターンが殆どだ。犯人が見つからない場合は当然だし、万一見つかったとしても、法曹界の人間なんてαばかりだから、裁判の度に「Ω側に落ち度があった」だの「抑制剤を飲まなかったことによるΩの怠慢」だので片付けられてしまう。
自分もその簡単に片づけられてしまうΩの中の一人になってしまうのだろうか?と空翔は涙を流した。
この前、電車で痴漢被害に遭ったときは大地が居てくれた。
あの時にもっと、ちゃんと自分の身体のことも、万が一のことも考えておけばよかった。
そんな、してもしきれない後悔を心のなかでしていたときに、男のものが挿入されようとした。
もうだめだ、全部受け入れよう…そう思ったからだろうか?途端に空翔の身体はふっと楽になった。
諦めてしまうということは、悲しいけど、どんな状況でも楽になる手段なのだと空翔はうっすら思っていた。
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