神様の椅子に座った男の子が行方不明になりました

男の子が消えた

　清流池公園の大きな池には、その傍らに4つの椅子がある。広い丸机に四脚の椅子。その椅子は苔に包まれ、蔓に蝕まれ、誰も長らく座っていなかったことが分かる。それは何故なのか。その答えは簡単だ、それが神様の椅子であるからだ。そして、その椅子に座った5歳の男の子が、行方不明となった。

「見ました、男の子が座っていたんですよ。あの子誰だったかな…………そうです、その写真の男の子です。座っていて何をしていたのか？…どうだったでしょうか、なんか…その、どこかを見ていたような。そうです、そう、池を見ていたんです。私が知っているのはここまでです。だって私はこの道をただ歩いていただけ、本当にすれ違っただけなんですよ。というか、みんなそうでしょ。椅子があるこの場所は、動物園と植物園を繋ぐ道に過ぎません。ここで立ち止まってくつろぐ場所ではないんですよ。」

　清流池公園とは、清流池を含む関連施設一帯を指す。公園内には、動物園や植物園、子供の遊具施設である科学館など、家族連れをターゲットにした建物が多く並ぶ。植物園と動物園を線で結び、その中央にあたる位置、そこに清流池はある。清流池の周りを囲むように遊歩道があり、そこを歩くことで、植物園と動物園を行き来することができる。その遊歩道から、神様の椅子を覗き見ることができる。おそらく行方不明の男の子も、遊歩道から侵入し、椅子に座ったのだろうと思われる。

　この事件の回答については、3つの可能性に絞られることとなる。まず1つ目は誘拐だ。しかしこれについては極めて難しい。この場所から誘拐しようとした場合、遊歩道を必ず通る必要が出てくるからだ。一般人が通る、遊歩道を使って誘拐をするということはリスクが高い。2つ目は落水だ。今のところ最も可能性が高い案である。清流池は深い。浅瀬が存在せず、神様の椅子がある箇所から入水すれば、即座に深さ10mの脅威に晒されることになる。5歳の男の子にとって、そこから脱出することは難しいものと言えるだろう。そして3つ目の可能性。それは、神隠しだ。

「俺は仮にも警察だ。そんな話、信じるわけにはいかない。いかないんだけどさ、俺もここが地元なんだ、だから分かるんだよ。清流池はなんか違うんだよ、なんか。気味が悪いんだここは。特にあの椅子のところは。寒気がするというか……だから…さ、みんな思ってるし、確信してる。あの池にはいるんだよ、神様ってやつが。」