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第2話 桶の中の赤子

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 ディヴァの出身地はタシカート村である。アリシベ島北部に聳え立つ山のふもとに位置する小さな村だ。ディヴァはタシカート村へ帰ってきていた。昨日の戦闘によってアリシベ島南部は甚大な被害を受けた。都市イルタは軽微な被害で済んだものも、しばらくは被害規模の調査が行われる関係で忙しくなるそうだ。徴兵の件は後程連絡をするからとりあえず一度帰宅してほしいとのことで、公爵から直に命令を受けたのだ。

「おお、ディヴァ。帰ってきていたのか!軍隊に行ってしまったのではなかったのか?」

ディヴァにそう声をかける男性。彼はタシカート村の村長。ディヴァに両親はおらず、彼こそがディヴァを育て上げた。二人はまさに父と子のような関係なのである。

「なるほど、そんなことがあったのか。ふふ、しかしまったく、お前らしいと言えばお前らしいものだな。お前は生まれながらにしての豪運の持ち主と言うことか!ガハハハハ!!!」

ディヴァは何のことを言われているのか検討もついていない様子だ。村長が言うに、ディヴァが幸運にも生還したのはこれが初めてでは無いと言う。

「おう、タシカート村に来たときのことを覚えているか?覚えているわけないわな!まだゼロ歳くらいだったんだからな。お前は桶の中に寝かされていた。それを俺が見つけたんだ。」

ディヴァはそのことを初めて知った。今までずっとタシカート村で生まれたものだと思っていたのだ。生まれて間もなく両親は事故で亡くなったのだと、村長から聞かされていたのだから。

「問題はどこで見つけたのかってところだ。どこだと思う?村の横を流れるあの川の岸で見つけたんだ。つまりはな、桶に寝かされたままお前は川に捨てられたんだ。本来ならば桶なんてものあっという間にひっくり返っちまってお前は藻くずにでもなってたんだろうに……すごいもんだよ。」

 タシカート村に帰ってから一週間が経ったでたろうか。公爵より改めて徴兵の命令が下った。ディヴァはその日のうちに村を発つ準備を始める。タシカート村は本当に小さい村で、民家は4軒しか建っていない。そのうち1つはディヴァの家で、もう1つは村長の家である。そんな小さな村でディヴァは18年間生き抜いてきた。

「お前と話せるのもこれが最後かもしれない、ひとつ我儘を聞いてくれないか。都市イルタに行く道中、お前にひとつ頼み事をしたい。ロビジャ村は分かるだろ?そこの村長に荷物を運んでほしいんだ。」

村長はディヴァにそう言って依頼をした。村長には本当にお世話になった。快く承諾をする。

「きっとこれからお前には幾多もの災難が降りかかるだろう。それは銃弾の雨かもしれない、それは爆風による嵐かもしれない。しかし、忘れるな。お前は生まれながらにしての豪運の持ち主。すなわち神に見初められた人間ということだ!生きて帰ってこい!分かったな!」

村を発つディヴァの姿が見えなくなるまで、村長は手を振り続けた。

 改めて徴兵令を受けたディヴァ。村長の荷物を届けるべく、ロビジャ村へ向かう。
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