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第1話 アリシミアの花
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徴兵制だ。彼の名前はディヴァ・ラドフォード。ディヴァは軍隊に入るためにここまでやって来た。その街には、赤い煉瓦作りの家が沢山立ち並ぶ。その窓からは花の植木鉢が姿を見せている。白い花弁の大きな花だ。どの家の窓にも同じ花が植えられている。
「ははは、不思議な光景かい?あの花はな、アリシミアっていう花でさ。このあたりでしか咲かない花なのさ。アリシミアの花は大きくて綺麗なんだが、野生では生きることのできない花だ。風が吹くだけでその花弁はたちまち落ちてしまう。」
槍を片手に持つ鎧の門番はそう語る。確かにどの家のアリシミアの花も、窓の内側に置かれており、外の風に晒されているものは1つもない。
「全く、儚い花だよな。だからこの街では旗にアリシミアの花を刻んだんだ。その綺麗な花が風に揺られるところを見るために。」
都市イルタ。この街には今、徴兵制で集められた若者が大勢いる。国中の若者は、まずこの都市イルタに集められることになっているのだ。ここはアリシベ島と呼ばれる大きな島である。山間部の北部と湾岸部の南部から構成される島だ。この島を統治するのはアリシベ公国であり、その首都こそが都市イルタなのである。
「さてそんな話はさて置いて、そこのお前。徴兵令でやってきた野郎だな?公爵様からの命令だ、徴兵令を受けた者は東部海岸に集合するよう言葉を預かっている。場所は分かるか?ここから東にずっと歩いていけば海岸に生い茂る木々が見えてくる、それが目印だ。」
東部海岸には、幹の細い木がたくさん生えている。葉っぱは細く、地面には種の塊がいくつも落ちていた。その場にいるのは約40人くらいの男性、全て徴兵令で集められた若者であろう。今のところまだ集合予定時刻までには15分ほどの猶予がある。今のうちに休息を取っておいた方がいいだろう。そんな中、海を見渡していた人物らが徐々に騒ぎ始めた。
「おい!お前たち何を騒いでいる!」
都市イルタの兵士が男性達に向かって怒声を浴びせ、彼らに歩み寄っていく。海が見渡せるほどまで岸に近づくと、兵士はそのわけを理解した。
「あれは…軍艦?!おい、今日近海を軍艦が通ることなんて聞いていないぞ。どこの所属だ一体。」
2隻の航空母艦を中心に、1隻の戦艦、6隻の駆逐艦が護衛する。
「あれは…航空母艦ヴラジミリ……だ。確かに覚えているぞ…父さんに連れられて乗ったことが確かに……。ということは、あの艦隊の所属は…イースタン自治区だ……。まずいぞ、内戦だ。内戦が始まるんだ。」
「ん…あれは、なんだ?」
ディヴァの近くにいた男性たちがべらべらと喋る。彼の目線の先を見つめてみると、1つの飛翔体が海の彼方から飛んでくるのが見える。その飛翔体はぐんぐんと進み、徐々にこちらに向かってくる。それはとてつもない速さだ。あっという間にその正体が目に見えた。
「魔道士だ。」
その魔道士は有名な人物であった。その場にいた誰もがその名前を口にした。「第一王女コロン・ヘンダーソン様」と。橙色のローブに身を包み、長い黒髪は背中まで届く。大きなつばがある三角防止には銀の装飾が輝いている。その手には槍のような杖を握っている、杖の先は白く輝いている。彼女はアリシベ島の近海でとどまり、その空中で静止した。みんな彼女の姿に釘付けになってしまい、他のことを見ていた者はいなかったであろう。その次の瞬間であった。
ドゴォオオオオオン!!!
戦艦と駆逐艦の砲撃が始まったのだ。一斉掃射だ。軍艦の砲塔がこちらへ向きを回していたことに気付いていなかった。全ての砲弾は魔道士に向けて放たれ、その軌道の先にはアリシベ島があった。
「ぎゃあああああ、逃げろおお!!!」
魔道士コロンは軽々と弾丸の全てを回避した。その結果アリシベ島の湾岸部は甚大な被害を被ることになった。ディヴァ・ラドフォードは奇跡的に生存する。彼が負った怪我は顔の掠り傷程度。しかし、彼の周りはそうはいかなかった。都市イルタに徴兵令で集められた若者は誰一人として生き残らなかった。さっきまで木々が生い茂っていたはずの湾岸部はこの一瞬で焦土へと変貌してしまった。
「並みの魔道士であれば対空兵器は確かに有効です、私達は生身の人間ですからね。戦闘機に撃つよりも遥かに効果的。だが……、軍艦の砲撃ごときでこの私を捉えられると本気でお思いで?」
魔道士コロンは手に持った杖を空に掲げる。その杖の先には3つの突起がある。その1つが黄色に明るく輝く。そしてコロンの頭上に、黄色く光る球が生成されていく。彼女は艦隊の方にその眼差しを向ける。
「私の魔道は鉄をも貫く!食らえ、『閃光魔道』!」
黄色く光る玉は灼熱の光線へと姿を変えた。その光線は航空母艦ヴラジミリの甲板を意図も容易く貫いていった。そしてそれをきっかけに大火災が起きた。次第にその火災は爆撃機に積まれている爆弾に引火。それにより動力に被害を受けたのか、目に見えて速力を落としていった。
「私の任務は撃退まで。さあ逃げなさい、私を相手にして命あって逃げることができるなんて幸運なことなのよ?」
航空母艦ヴラジミリはもう長くは持たない。ヴラジミリ配属の魔道士が、飛行魔道で乗組員を移動させている。隣で航行する別の航空母艦へ避難をさせているようだ。魔道士コロンは上空からそれを見届ける。余裕の笑みを浮かべながらにやにやと。元いたところへ戻るように艦隊は針路を返していった。その途中2隻の駆逐艦は、大破した航空母艦ヴラジミリに魚雷を射出した。それにより船体は真っ二つに割れ、沈没していった。
魔道士と軍艦の交戦はあっという間に終わった。イースタン自治区艦隊による攻撃を、スレイミーナ王国の魔道士が未然に止めた「アリシベ島沖の海戦」をきっかけに「スレイミーナ内戦」は幕を開けることになる。これからのセカイはどの様になってしまうのか、誰もがそれを憂慮する。しかしディヴァの頭の中はそんなことの心配は微塵もなかった。彼は思ってしまったんだ、鉄と血の匂いをも忘れるくらいに。軍艦をも貫く光線を放ち、獅子奮迅の戦いを見せる彼女に、アリシミアの花のような美しさを。
これより始まるのは、アリシミアの花を求めて内戦地を闊歩するディヴァ・ラドフォードのお話。彼は無事にアリシミアの花のもとに辿り着くことができるのでしょうか?
「ははは、不思議な光景かい?あの花はな、アリシミアっていう花でさ。このあたりでしか咲かない花なのさ。アリシミアの花は大きくて綺麗なんだが、野生では生きることのできない花だ。風が吹くだけでその花弁はたちまち落ちてしまう。」
槍を片手に持つ鎧の門番はそう語る。確かにどの家のアリシミアの花も、窓の内側に置かれており、外の風に晒されているものは1つもない。
「全く、儚い花だよな。だからこの街では旗にアリシミアの花を刻んだんだ。その綺麗な花が風に揺られるところを見るために。」
都市イルタ。この街には今、徴兵制で集められた若者が大勢いる。国中の若者は、まずこの都市イルタに集められることになっているのだ。ここはアリシベ島と呼ばれる大きな島である。山間部の北部と湾岸部の南部から構成される島だ。この島を統治するのはアリシベ公国であり、その首都こそが都市イルタなのである。
「さてそんな話はさて置いて、そこのお前。徴兵令でやってきた野郎だな?公爵様からの命令だ、徴兵令を受けた者は東部海岸に集合するよう言葉を預かっている。場所は分かるか?ここから東にずっと歩いていけば海岸に生い茂る木々が見えてくる、それが目印だ。」
東部海岸には、幹の細い木がたくさん生えている。葉っぱは細く、地面には種の塊がいくつも落ちていた。その場にいるのは約40人くらいの男性、全て徴兵令で集められた若者であろう。今のところまだ集合予定時刻までには15分ほどの猶予がある。今のうちに休息を取っておいた方がいいだろう。そんな中、海を見渡していた人物らが徐々に騒ぎ始めた。
「おい!お前たち何を騒いでいる!」
都市イルタの兵士が男性達に向かって怒声を浴びせ、彼らに歩み寄っていく。海が見渡せるほどまで岸に近づくと、兵士はそのわけを理解した。
「あれは…軍艦?!おい、今日近海を軍艦が通ることなんて聞いていないぞ。どこの所属だ一体。」
2隻の航空母艦を中心に、1隻の戦艦、6隻の駆逐艦が護衛する。
「あれは…航空母艦ヴラジミリ……だ。確かに覚えているぞ…父さんに連れられて乗ったことが確かに……。ということは、あの艦隊の所属は…イースタン自治区だ……。まずいぞ、内戦だ。内戦が始まるんだ。」
「ん…あれは、なんだ?」
ディヴァの近くにいた男性たちがべらべらと喋る。彼の目線の先を見つめてみると、1つの飛翔体が海の彼方から飛んでくるのが見える。その飛翔体はぐんぐんと進み、徐々にこちらに向かってくる。それはとてつもない速さだ。あっという間にその正体が目に見えた。
「魔道士だ。」
その魔道士は有名な人物であった。その場にいた誰もがその名前を口にした。「第一王女コロン・ヘンダーソン様」と。橙色のローブに身を包み、長い黒髪は背中まで届く。大きなつばがある三角防止には銀の装飾が輝いている。その手には槍のような杖を握っている、杖の先は白く輝いている。彼女はアリシベ島の近海でとどまり、その空中で静止した。みんな彼女の姿に釘付けになってしまい、他のことを見ていた者はいなかったであろう。その次の瞬間であった。
ドゴォオオオオオン!!!
戦艦と駆逐艦の砲撃が始まったのだ。一斉掃射だ。軍艦の砲塔がこちらへ向きを回していたことに気付いていなかった。全ての砲弾は魔道士に向けて放たれ、その軌道の先にはアリシベ島があった。
「ぎゃあああああ、逃げろおお!!!」
魔道士コロンは軽々と弾丸の全てを回避した。その結果アリシベ島の湾岸部は甚大な被害を被ることになった。ディヴァ・ラドフォードは奇跡的に生存する。彼が負った怪我は顔の掠り傷程度。しかし、彼の周りはそうはいかなかった。都市イルタに徴兵令で集められた若者は誰一人として生き残らなかった。さっきまで木々が生い茂っていたはずの湾岸部はこの一瞬で焦土へと変貌してしまった。
「並みの魔道士であれば対空兵器は確かに有効です、私達は生身の人間ですからね。戦闘機に撃つよりも遥かに効果的。だが……、軍艦の砲撃ごときでこの私を捉えられると本気でお思いで?」
魔道士コロンは手に持った杖を空に掲げる。その杖の先には3つの突起がある。その1つが黄色に明るく輝く。そしてコロンの頭上に、黄色く光る球が生成されていく。彼女は艦隊の方にその眼差しを向ける。
「私の魔道は鉄をも貫く!食らえ、『閃光魔道』!」
黄色く光る玉は灼熱の光線へと姿を変えた。その光線は航空母艦ヴラジミリの甲板を意図も容易く貫いていった。そしてそれをきっかけに大火災が起きた。次第にその火災は爆撃機に積まれている爆弾に引火。それにより動力に被害を受けたのか、目に見えて速力を落としていった。
「私の任務は撃退まで。さあ逃げなさい、私を相手にして命あって逃げることができるなんて幸運なことなのよ?」
航空母艦ヴラジミリはもう長くは持たない。ヴラジミリ配属の魔道士が、飛行魔道で乗組員を移動させている。隣で航行する別の航空母艦へ避難をさせているようだ。魔道士コロンは上空からそれを見届ける。余裕の笑みを浮かべながらにやにやと。元いたところへ戻るように艦隊は針路を返していった。その途中2隻の駆逐艦は、大破した航空母艦ヴラジミリに魚雷を射出した。それにより船体は真っ二つに割れ、沈没していった。
魔道士と軍艦の交戦はあっという間に終わった。イースタン自治区艦隊による攻撃を、スレイミーナ王国の魔道士が未然に止めた「アリシベ島沖の海戦」をきっかけに「スレイミーナ内戦」は幕を開けることになる。これからのセカイはどの様になってしまうのか、誰もがそれを憂慮する。しかしディヴァの頭の中はそんなことの心配は微塵もなかった。彼は思ってしまったんだ、鉄と血の匂いをも忘れるくらいに。軍艦をも貫く光線を放ち、獅子奮迅の戦いを見せる彼女に、アリシミアの花のような美しさを。
これより始まるのは、アリシミアの花を求めて内戦地を闊歩するディヴァ・ラドフォードのお話。彼は無事にアリシミアの花のもとに辿り着くことができるのでしょうか?
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