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1章
湖の主
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「パァアアン!!!」
湖の主らしきモノに向けて撃ってみるも、銀の弾丸は届かない。もしかしたら、周りの濃霧が何か影響を及ぼしているような可能性もあるかもしれない。勿論、確たる証拠はない。そしてそれに対して出来ることは皆無だ。そんなことを思っていると目の前から霧の塊が射出されてきた。少々姿を露にしすぎたようだ。
「我は……属。湖の……の手足とな…、侵略者を排……す…。」
弾道から眷属の着弾地点を予測し、眷属の発生に合わせて攻撃を当てることに無事成功する。核を砕かれるや否や眷属はたちまち消滅していった。
「今の眷属、何か妙な感じがしたな。そうだ、口上が聞き取りずらかった。確かに、発声に異常があった。今まではそんなことはなかった。もしや、質が落ちているのか?眷属は霧の塊を卵にして生まれる。であるならばだ、眷属を次から次へと殺していけばどこかの時点で霧が失くなるんじゃないか?」
私は自ら姿を湖の主に晒し、すぐさま眷属狩りを行った。一体倒しては物陰に隠れ、武具や体調を整える。その繰り返しを行った。そして、眷属を失うことで湖の主は消耗していくという予測は当たっていた。初めに気付いた口上はそこから更に聞き取れないものとなっていた。唯一懸念していたことは複数体の射出であったが、ついに最後までそれは起こらなかった。そして最後にこちらに飛び出してきたのは霧の主そのものの大きな霧の塊であった。湖畔に着弾するとその霧は渦巻きだした。そして霧の中から何かが出てきた。
「ここまで辿りついて見せた者が現れたのはいつぶりであろうか。おや、迷宮の脅威である存在が知性を持ち喋る姿は信じられぬか?ふふっ、私こそはこの湖の主だ。」
その風貌はこの世の存在とは思えない雰囲気を醸し出している。我々人間にとって認知しやすい人型をしてこそはいるが、その顔は黒く塗りつぶされ、ローブの裾や袖からは細い触手のようなものが覗きだしている。指は異常に痩せ細り、骨だけにも思える細さ。彼こそがこの迷宮の霧を生み出し、眷属を冒険者に差し向けてきた張本人である。彼は私の方にちらりと顔を向け、天を仰ぎながら言葉を漏らした。
「ロシュフォールよ。お前に創られてからいくらの時が経ったであろうか。惰性でも生きていれば何かしら心踊らされるコトが起こるものだな。」
聞いたことのない名前だ。それがこの迷宮を創り出した存在なのだろうか。今はそんなことはどうでもいい、集中しろ。私の前にいる彼こそが、今私が仕留めなければいけない奴だ。勝つものが生き、負けるものが死ぬ。
「身構えているところ申し訳ないが冒険者よ。私に戦うだけの力は残されておらぬ。お前が殺し尽くした私の眷属はまさに私そのものだ。アレを全て失えば私に残るのは残り滓のみ。さあ、私を銀の弾丸で貫き、次に進むのだ。どうせ私は蘇るさ、迷宮の呪いとはそういうものなんだ。」
湖の主は突如として寸前まで近づいてきた。私がまばたきで目を閉じた隙を狙われた。細い指で私の腕を掴み、銃口を自らの胸に突きつけた。指の細さとは裏腹にその力を振り払うことは叶わない。湖の主はそのまま引き金を引く。銃声と共に弾丸は射出され、身体を貫通していった。傷口からは血らしきものは全く流れてこない。
「……っ…はは…っぁ……冒険者よ、進め。そして真実を見よ……。はは…ぁ……人間とは真に愚かなものよ……ハハハハハハ……」
湖に立ち込める霧が湖に沈んでいく。空気が一気に冷えて寒くなった。白い濃霧は水面をたちまち凍らせていった。夢幻の湖畔の真ん中に位置していた湖は丸ごと凍り、歩けるようになった。氷雪の床の中央には光るものが見える。あれはもしかしたらこの迷宮のゴールかもしれない。私は氷の上に足を踏み入れ光へ近づいていくことにした。氷はとても綺麗で濁り一つない。この湖には魚は居ないようだ。それどころか何もいない。まさに迷宮のために生まれた湖といったところか。
私は湖の中央に辿り着いた。中央から漏れ出していた光は次第に私を包み込んだ。迷宮での記憶はここで途絶えている。気付いた時には私は迷宮の外にいて、入口の傍の草むらで横たわっていた。
「ああ、帰ってきたんだ。」
湖の主らしきモノに向けて撃ってみるも、銀の弾丸は届かない。もしかしたら、周りの濃霧が何か影響を及ぼしているような可能性もあるかもしれない。勿論、確たる証拠はない。そしてそれに対して出来ることは皆無だ。そんなことを思っていると目の前から霧の塊が射出されてきた。少々姿を露にしすぎたようだ。
「我は……属。湖の……の手足とな…、侵略者を排……す…。」
弾道から眷属の着弾地点を予測し、眷属の発生に合わせて攻撃を当てることに無事成功する。核を砕かれるや否や眷属はたちまち消滅していった。
「今の眷属、何か妙な感じがしたな。そうだ、口上が聞き取りずらかった。確かに、発声に異常があった。今まではそんなことはなかった。もしや、質が落ちているのか?眷属は霧の塊を卵にして生まれる。であるならばだ、眷属を次から次へと殺していけばどこかの時点で霧が失くなるんじゃないか?」
私は自ら姿を湖の主に晒し、すぐさま眷属狩りを行った。一体倒しては物陰に隠れ、武具や体調を整える。その繰り返しを行った。そして、眷属を失うことで湖の主は消耗していくという予測は当たっていた。初めに気付いた口上はそこから更に聞き取れないものとなっていた。唯一懸念していたことは複数体の射出であったが、ついに最後までそれは起こらなかった。そして最後にこちらに飛び出してきたのは霧の主そのものの大きな霧の塊であった。湖畔に着弾するとその霧は渦巻きだした。そして霧の中から何かが出てきた。
「ここまで辿りついて見せた者が現れたのはいつぶりであろうか。おや、迷宮の脅威である存在が知性を持ち喋る姿は信じられぬか?ふふっ、私こそはこの湖の主だ。」
その風貌はこの世の存在とは思えない雰囲気を醸し出している。我々人間にとって認知しやすい人型をしてこそはいるが、その顔は黒く塗りつぶされ、ローブの裾や袖からは細い触手のようなものが覗きだしている。指は異常に痩せ細り、骨だけにも思える細さ。彼こそがこの迷宮の霧を生み出し、眷属を冒険者に差し向けてきた張本人である。彼は私の方にちらりと顔を向け、天を仰ぎながら言葉を漏らした。
「ロシュフォールよ。お前に創られてからいくらの時が経ったであろうか。惰性でも生きていれば何かしら心踊らされるコトが起こるものだな。」
聞いたことのない名前だ。それがこの迷宮を創り出した存在なのだろうか。今はそんなことはどうでもいい、集中しろ。私の前にいる彼こそが、今私が仕留めなければいけない奴だ。勝つものが生き、負けるものが死ぬ。
「身構えているところ申し訳ないが冒険者よ。私に戦うだけの力は残されておらぬ。お前が殺し尽くした私の眷属はまさに私そのものだ。アレを全て失えば私に残るのは残り滓のみ。さあ、私を銀の弾丸で貫き、次に進むのだ。どうせ私は蘇るさ、迷宮の呪いとはそういうものなんだ。」
湖の主は突如として寸前まで近づいてきた。私がまばたきで目を閉じた隙を狙われた。細い指で私の腕を掴み、銃口を自らの胸に突きつけた。指の細さとは裏腹にその力を振り払うことは叶わない。湖の主はそのまま引き金を引く。銃声と共に弾丸は射出され、身体を貫通していった。傷口からは血らしきものは全く流れてこない。
「……っ…はは…っぁ……冒険者よ、進め。そして真実を見よ……。はは…ぁ……人間とは真に愚かなものよ……ハハハハハハ……」
湖に立ち込める霧が湖に沈んでいく。空気が一気に冷えて寒くなった。白い濃霧は水面をたちまち凍らせていった。夢幻の湖畔の真ん中に位置していた湖は丸ごと凍り、歩けるようになった。氷雪の床の中央には光るものが見える。あれはもしかしたらこの迷宮のゴールかもしれない。私は氷の上に足を踏み入れ光へ近づいていくことにした。氷はとても綺麗で濁り一つない。この湖には魚は居ないようだ。それどころか何もいない。まさに迷宮のために生まれた湖といったところか。
私は湖の中央に辿り着いた。中央から漏れ出していた光は次第に私を包み込んだ。迷宮での記憶はここで途絶えている。気付いた時には私は迷宮の外にいて、入口の傍の草むらで横たわっていた。
「ああ、帰ってきたんだ。」
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