冒険者よ永遠に

星咲洋政

文字の大きさ
上 下
6 / 32
序章

不可逆

しおりを挟む
「ぐぅううううぅ……っ…!!」

 脚の痛みは尋常ではない。左足だ。この脚を引き摺って逃走ができるとは思えない。私は最後の弾丸に手を伸ばした。いくら最後の切り札とはいえ、使わずに死ぬことは最もしてはいけないことだ。ここで出し惜しみをしてみろ。危機を脱却できれば理想、悪くて死。良くて更に負傷を増やした上で弾丸を失う。ならば私はここで撃つ。

「パァンンンッ!!」

銀の弾丸を使いきった。亡霊は消え去り、勝利を享受する。私はもうスタートに戻ることは叶わなくなった。残された道はゴールに到達して帰還するのみ。しばらくは脚の回復のため部屋の隅に隠れて時を過ごそう。そう考えた時だった、景色が変わる。ワープが作動してしまい一つ前の部屋に戻ってしまった。

 脚の痛みはだいぶ落ち着き歩けるまでにはなった。さっきのワープはおそらく、例の床の上に立ったまま長時間が経過したことによるものと思われる。たった一手戻し、されど一手。これがどう影響するかは後に分かることであろう。自分のミスで命をより危機に晒した。情けなさが一気に襲ってくるも、そのような暇もないのが辛いところ。歩けるようになったのであれば探索を続けることにしよう。必ず生きて帰るために。

 ワープを経てついに最後の部屋に辿り着いた。最後の部屋は一本道が長く続く構造になっており、その奥には壁が立ち塞がる。私は試験の時を思いだし、鞄にしまっておいた石を掲げた。石は青く光る。迷宮はそこから先へ進む道を開けてくれた。そして迷宮は同時に、そこから先に進む資格があるのか試練を課してきた。後ろから気配、亡霊である。開かれた道の果てに見えるのは輝く宝玉。この一本道を駆け抜け、それに触れることができれば踏破となり逃げることができるであろう。しかし私の左足はそれを許すつもりはないようだ。ふと、部屋を見渡した、そして古の石室について改めて思い返した。

 私は一心不乱に剣を振る、狙うは腕だ。亡霊の攻撃手段は指先による刺突または手刀であった。ならば腕にダメージを蓄積させればその威力を減衰できるはずだ。私はどうせ逃げることは叶わぬ身、脚への被弾は捨てろ。肉を切り骨を断つ。抗う術だけは失くしてはならない。緒戦でやられた左足に亡霊の攻撃が深く刺さる。それにより生まれた隙を利用して亡霊の両腕に深手を負わせることに成功した。私は猛攻を止めない、亡霊は少しずつ後ろへ追い込まれることを余儀なくされていった。これはどうやらあの失敗は無駄ではなかったようだ。全ては必然でありこの時のためにあったのだ。

「私の勝ちだ。消え去れ、亡霊よ。」

亡霊が立つ床が作動し、亡霊は別の部屋へと飛ばされた。私は、亡霊が出現した場所が、ワープの床の目の前であることに気付いた。一か八かだ。もしかしたら迷宮は亡霊をも飲み込んでくれるかもしれない。いざ終わってみればどうだ、完璧なるまでの成功だ。あとは目の前の宝玉に触れればきっと終わり。長い冒険であった。


序章  完
しおりを挟む

処理中です...