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番外編(ミオ一人称)
ライサとミハイルとぬいぐるみ
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朝。いつもと同じ時間に目を覚まして、着慣れた作業着に袖を通す。
元々朝に弱くはないけれど、こっちに来てから寝つきも寝起きも格段によくなった。
テレビもスマホもなければ夜更かしてもすることはないし、一日掃除した疲れから決まった時間に眠くなり、同じ時間に目を覚ます。とっても健康的な日々だ。
中庭に降りて、桶に水を組む手つきもなかなかこなれてきたと思う。朝食前の中庭の水やりは日課の一つ。
……本音を言えば、少し退屈ではある。
まぁ幸い、リエーフさんはよく話し相手になってくれるのでそこまで寂しいとは思わない。ミハイルさんは……相変わらずだけど。最近食事を一緒にするようになったけど全く話が弾まない。
一度、同じ年頃の女性の幽霊を探してみようかと思ったこともある。しかし、見かけて声を掛けてもやっぱり話が弾まなかったので、私が悪いのかもしれない。思えば元々そう交友関係が広いわけでもないし、人のことどうこう言えるほど話し上手なわけでもない。
「ま、贅沢な悩みよね」
ただ、どうしても独り言は増えちゃうんだな……、だから。
「おはよ、ミオ」
二階くらいの高さから、聞きなれた声が降ってくる。だから、最初は手を焼いたけど、今は彼女がいてくれることが素直にありがたい。
「おはよう、ライサ。見て見て、もうすぐ花が咲きそうなの」
話し相手を見つけて、私ははしゃいで声を上げた。けど、返ってきたのは冷めた視線だった。
「毎日掃除やら庭の手入れしていて、飽きない?」
「今のところは……」
花を一瞥して、ライサが溜息をつく。お兄さんほど彼女は花に興味がないらしい。
「ミオは恋人とかいないの?」
「い、いないよ。どうしたの突然」
「別に。ミオくらいの歳の女は、みんな恋にウツツを抜かしてるもんだと思っていたから」
この子、歳の割に妙に擦れた発言をするんだよねぇ……。思わず苦笑しながら、でも少し納得した。
だから私は同年代の女性と話が合わないのか。
「いたらいいなぁとは思うんだけど出会いがなくて」
元の世界でも掃除ばっかりしている私である。
半ば適当、半ば真実の答えを返すと、ライサはじっと私を見下ろして短い問いを口にした。
「ミハイルは?」
「う、うん?」
予想外の問いに、すぐに答えを用意できなかった。しかし探るような目で見下ろしてくるライサは、「答えろ」と無言で圧迫してくる。
「そんな風に見たことないけど……無理がない? 私ただの使用人だし」
「ミハイルの三人目の婚約者だってただの平民だったわよ」
ライサが少し意外なことを口にする。
「そうなの? あまり身分って関係ないんだ」
「そんなことはないわ。ただこの家の事情が事情だし、最終的に人柄重視って感じ」
「じゃあ、良い人だったのね。その……三人目」
数字で呼ぶのはどうかと思うが、名前を知らないのだから仕方ない。聞いたところで会うこともないだろうし。
特に知りたくもない。
「あたしは嫌いだったけど。ミハイルはけっこうデレデレしてたわね」
地面まで降りてきて、ライサが不機嫌そうに答える。
デレデレなミハイルさんとか、全く想像できない。だってツンツンすらしてないくらい無表情だし口数も少ないし。ちょっと見てみたいような……見てみたくないような。
「ライサはどうして嫌いだったの?」
「ミハイルがデレデレしてたから」
「……ふーん」
やっぱり、ライサって、どう考えても。
「ライサって、やっぱりミハイルさんのこと好きなんじゃないの?」
「だいっ嫌いよ!」
怒るかと思ったけれど、清々しいほどの即答が来た。
「じゃあ、どうしてそんなに嫌いなの?」
問うと、打てば響くような彼女が珍しく押し黙る。そして、いつも持っているぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。
「その子、壊したから?」
「それも、ある」
「なんで壊したりしたんだろうね。ミハイルさんに聞いても、覚えてないって。ライサはそのときのこと覚えてる?」
「……覚えてるわ。忘れるもんですか」
どこからともなく、いい匂いが漂ってくる。リエーフさんが朝食を作っているのだろうか。
……まだ少し、時間があるかな。
「教えてほしいな。昔のライサやミハイルさんのこと、私、聞きたい」
水差しをおいて、私はその場に座り、膝を抱えた。
ライサは少しの間逡巡していたけれど、やがて私の向かいにふわりと座った。
「別に、大した話じゃないわ。小さい頃のミハイルってめちゃくちゃ泣き虫で、めちゃくちゃ幽霊嫌いだったのよ」
うん、まったく想像できない。
幽霊嫌いは今もだけど、少なくとも大っぴらには態度に出さないし。まぁ、大人だから当然か。
「でも、あたしとは話をしてくれたの。……あ、あたしは綺麗だから怖くないって」
ライサが少し頬を染める。
やっぱり好きなんじゃないのっていうツッコミは、話が進まなくなりそうだから飲み込んでおく。
しかし、いくら子供の頃とはいえ、本当にそれミハイルさんなのかってくらい今とはかけ離れてるな……、私なんてほぼ失礼なことしか言われたことないのに。
まぁ、確かに私と違ってライサは綺麗だ。まるで職人が美を追求して作ったお人形のよう。私でも見惚れるんだから、同じくらいの年頃の男の子だったら魅了されても仕方ない。
「あいつほんと愚痴ばっかりで、よく付き合わされたの。幽霊も嫌いなら戦うことも嫌いみたいで、お兄様が匙投げるくらい剣下手だったわ」
「戦うって、何と?」
「今は平和だからいいのかもしれないけど、伯爵家嫡男だし剣くらいはできないとダメよ。普通は」
そういうものか……、貴族、それも異世界のだし、全くピンと来ないけど。
「ほんと毎日ピーピー泣いてた。そんな男好きになれるわけないでしょ」
「えっと……そのときミハイルさん幾つだったの?」
「五歳」
思ったより小さかった。だったら無理もない。私にも弟がいるけど、小学校くらいまでは私がちょっと何か言うだけですぐ泣いてたような覚えがあるしなぁ。
「その頃ね……先代夫人、つまりミハイルの母親ね。おかしかったのよ。心を病んでいたの。多分彼女も、こんな家に嫁ぎたくなかったのね」
それで、妙に腑に落ちた。
ミハイルさんの幽霊嫌いって、もしかしてそれが原因なんじゃないの?
「あたしのお母様も、心を病まれていたの。お兄様から聞いているかもしれないけど……ライサって本当は死んだ妹の名前なの。お母様はライサが好きだったから、死んだのを受け止められなくて……あたしをライサだと思い込んだ。この子もね、ライサのものなの。ライサが大事にしていたの。でも今はあたしがライサだから……大事にするの」
「……ライサ」
ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめるライサに、何と声を掛ければいいのかわからなかった。
多分、気安い同情で喜ぶような子じゃない。でも……一つ、わかったことがある。
「今の話、ミハイルさんにしたのね?」
「……そうよ」
「だったら、ミハイルさんがその子を壊したのは……」
いたずらや、嫌がらせなんかじゃない。
きっと――ライサに、妹の代わりなんかじゃなくて本来の自分でいてほしいって言いたかったんだ。だから、ぬいぐるみを壊したんだ。それは、ライサのものだから。
「……わかっているわよ。でもあたしが嫌いなのはあいつのそういうところよ。不器用にもほどがあるわ」
ぬいぐるみを抱きしめながら、ライサが呟く。渋面だけど、どこか嬉しそうに。
……私が思っていたよりずっと、複雑な乙女心だった。
「でも、ミハイルさんの婚約者に嫌がらせをするのはもうやめてあげたら?」
「あたしの嫌がらせで逃げていくような女なんて、いずれミハイルの母親みたいになるわ。そうしたらまた傷つくじゃないの」
ああ、なんだ。ライサも、いたずらや、嫌がらせなんかじゃない。
ライサだって不器用だ。こんなに綺麗で、大人びていて、賢いのに。
リエーフさんもエドアルトさんも、幽霊はすぐ忘れてしまうって言っていた。でもライサは、こんなに鮮明にミハイルさんとの過去を覚えている。
ああ、そうだ。ライサだけは最初から……ミハイルさんのこと嫌いながらも当主だってちゃんと認識してた。
「ふふふ」
「何笑ってるのよ? ……そうだ、安心して。あたし、ミオにはもう嫌がらせしたりしないから」
「え、うん。……ええ?」
えっと……どういうことだろう。
まぁいいか……深追いするのはやめておこう。だって――私は。
「ミオ」
不意に呼ばれて、騒ぎかけた胸を押さえつける。
ライサの方を見ると、その一瞬で姿を消していた。
どうして顔が熱くなろうとするんだろう……、深呼吸をして、振り返る。
うん。今日もとても不機嫌そうだ。
「なんでしょうか、ミハイルさん」
「朝食だから呼んでこいと、リエーフが」
「……ええと……」
いつにも増して不機嫌そうなのはそういうことか。
何故主人であるミハイルさんが従者であるリエーフさんに使われているのかと。突っ込んだところで余計不機嫌になるだけだろうなぁ。
「わかりました。すみません、呼びに来させてしまって」
「全くだ。……ライサと何を話していた」
ライサはすぐ逃げてしまったけど、ミハイルさんにはちゃんと見えていたらしい。
どうしようかな。ライサがミハイルさんにきつくあたる理由。言いたいけれど……きっと言えばライサは怒るだろう。それは少し困る。彼女はこの世界での、唯一の私の友人だから。
だから、人差し指を口元に当てる。
「女同士の秘密です」
怪訝な顔をするミハイルさんを見上げて、私はそう言って笑った。
元々朝に弱くはないけれど、こっちに来てから寝つきも寝起きも格段によくなった。
テレビもスマホもなければ夜更かしてもすることはないし、一日掃除した疲れから決まった時間に眠くなり、同じ時間に目を覚ます。とっても健康的な日々だ。
中庭に降りて、桶に水を組む手つきもなかなかこなれてきたと思う。朝食前の中庭の水やりは日課の一つ。
……本音を言えば、少し退屈ではある。
まぁ幸い、リエーフさんはよく話し相手になってくれるのでそこまで寂しいとは思わない。ミハイルさんは……相変わらずだけど。最近食事を一緒にするようになったけど全く話が弾まない。
一度、同じ年頃の女性の幽霊を探してみようかと思ったこともある。しかし、見かけて声を掛けてもやっぱり話が弾まなかったので、私が悪いのかもしれない。思えば元々そう交友関係が広いわけでもないし、人のことどうこう言えるほど話し上手なわけでもない。
「ま、贅沢な悩みよね」
ただ、どうしても独り言は増えちゃうんだな……、だから。
「おはよ、ミオ」
二階くらいの高さから、聞きなれた声が降ってくる。だから、最初は手を焼いたけど、今は彼女がいてくれることが素直にありがたい。
「おはよう、ライサ。見て見て、もうすぐ花が咲きそうなの」
話し相手を見つけて、私ははしゃいで声を上げた。けど、返ってきたのは冷めた視線だった。
「毎日掃除やら庭の手入れしていて、飽きない?」
「今のところは……」
花を一瞥して、ライサが溜息をつく。お兄さんほど彼女は花に興味がないらしい。
「ミオは恋人とかいないの?」
「い、いないよ。どうしたの突然」
「別に。ミオくらいの歳の女は、みんな恋にウツツを抜かしてるもんだと思っていたから」
この子、歳の割に妙に擦れた発言をするんだよねぇ……。思わず苦笑しながら、でも少し納得した。
だから私は同年代の女性と話が合わないのか。
「いたらいいなぁとは思うんだけど出会いがなくて」
元の世界でも掃除ばっかりしている私である。
半ば適当、半ば真実の答えを返すと、ライサはじっと私を見下ろして短い問いを口にした。
「ミハイルは?」
「う、うん?」
予想外の問いに、すぐに答えを用意できなかった。しかし探るような目で見下ろしてくるライサは、「答えろ」と無言で圧迫してくる。
「そんな風に見たことないけど……無理がない? 私ただの使用人だし」
「ミハイルの三人目の婚約者だってただの平民だったわよ」
ライサが少し意外なことを口にする。
「そうなの? あまり身分って関係ないんだ」
「そんなことはないわ。ただこの家の事情が事情だし、最終的に人柄重視って感じ」
「じゃあ、良い人だったのね。その……三人目」
数字で呼ぶのはどうかと思うが、名前を知らないのだから仕方ない。聞いたところで会うこともないだろうし。
特に知りたくもない。
「あたしは嫌いだったけど。ミハイルはけっこうデレデレしてたわね」
地面まで降りてきて、ライサが不機嫌そうに答える。
デレデレなミハイルさんとか、全く想像できない。だってツンツンすらしてないくらい無表情だし口数も少ないし。ちょっと見てみたいような……見てみたくないような。
「ライサはどうして嫌いだったの?」
「ミハイルがデレデレしてたから」
「……ふーん」
やっぱり、ライサって、どう考えても。
「ライサって、やっぱりミハイルさんのこと好きなんじゃないの?」
「だいっ嫌いよ!」
怒るかと思ったけれど、清々しいほどの即答が来た。
「じゃあ、どうしてそんなに嫌いなの?」
問うと、打てば響くような彼女が珍しく押し黙る。そして、いつも持っているぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。
「その子、壊したから?」
「それも、ある」
「なんで壊したりしたんだろうね。ミハイルさんに聞いても、覚えてないって。ライサはそのときのこと覚えてる?」
「……覚えてるわ。忘れるもんですか」
どこからともなく、いい匂いが漂ってくる。リエーフさんが朝食を作っているのだろうか。
……まだ少し、時間があるかな。
「教えてほしいな。昔のライサやミハイルさんのこと、私、聞きたい」
水差しをおいて、私はその場に座り、膝を抱えた。
ライサは少しの間逡巡していたけれど、やがて私の向かいにふわりと座った。
「別に、大した話じゃないわ。小さい頃のミハイルってめちゃくちゃ泣き虫で、めちゃくちゃ幽霊嫌いだったのよ」
うん、まったく想像できない。
幽霊嫌いは今もだけど、少なくとも大っぴらには態度に出さないし。まぁ、大人だから当然か。
「でも、あたしとは話をしてくれたの。……あ、あたしは綺麗だから怖くないって」
ライサが少し頬を染める。
やっぱり好きなんじゃないのっていうツッコミは、話が進まなくなりそうだから飲み込んでおく。
しかし、いくら子供の頃とはいえ、本当にそれミハイルさんなのかってくらい今とはかけ離れてるな……、私なんてほぼ失礼なことしか言われたことないのに。
まぁ、確かに私と違ってライサは綺麗だ。まるで職人が美を追求して作ったお人形のよう。私でも見惚れるんだから、同じくらいの年頃の男の子だったら魅了されても仕方ない。
「あいつほんと愚痴ばっかりで、よく付き合わされたの。幽霊も嫌いなら戦うことも嫌いみたいで、お兄様が匙投げるくらい剣下手だったわ」
「戦うって、何と?」
「今は平和だからいいのかもしれないけど、伯爵家嫡男だし剣くらいはできないとダメよ。普通は」
そういうものか……、貴族、それも異世界のだし、全くピンと来ないけど。
「ほんと毎日ピーピー泣いてた。そんな男好きになれるわけないでしょ」
「えっと……そのときミハイルさん幾つだったの?」
「五歳」
思ったより小さかった。だったら無理もない。私にも弟がいるけど、小学校くらいまでは私がちょっと何か言うだけですぐ泣いてたような覚えがあるしなぁ。
「その頃ね……先代夫人、つまりミハイルの母親ね。おかしかったのよ。心を病んでいたの。多分彼女も、こんな家に嫁ぎたくなかったのね」
それで、妙に腑に落ちた。
ミハイルさんの幽霊嫌いって、もしかしてそれが原因なんじゃないの?
「あたしのお母様も、心を病まれていたの。お兄様から聞いているかもしれないけど……ライサって本当は死んだ妹の名前なの。お母様はライサが好きだったから、死んだのを受け止められなくて……あたしをライサだと思い込んだ。この子もね、ライサのものなの。ライサが大事にしていたの。でも今はあたしがライサだから……大事にするの」
「……ライサ」
ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめるライサに、何と声を掛ければいいのかわからなかった。
多分、気安い同情で喜ぶような子じゃない。でも……一つ、わかったことがある。
「今の話、ミハイルさんにしたのね?」
「……そうよ」
「だったら、ミハイルさんがその子を壊したのは……」
いたずらや、嫌がらせなんかじゃない。
きっと――ライサに、妹の代わりなんかじゃなくて本来の自分でいてほしいって言いたかったんだ。だから、ぬいぐるみを壊したんだ。それは、ライサのものだから。
「……わかっているわよ。でもあたしが嫌いなのはあいつのそういうところよ。不器用にもほどがあるわ」
ぬいぐるみを抱きしめながら、ライサが呟く。渋面だけど、どこか嬉しそうに。
……私が思っていたよりずっと、複雑な乙女心だった。
「でも、ミハイルさんの婚約者に嫌がらせをするのはもうやめてあげたら?」
「あたしの嫌がらせで逃げていくような女なんて、いずれミハイルの母親みたいになるわ。そうしたらまた傷つくじゃないの」
ああ、なんだ。ライサも、いたずらや、嫌がらせなんかじゃない。
ライサだって不器用だ。こんなに綺麗で、大人びていて、賢いのに。
リエーフさんもエドアルトさんも、幽霊はすぐ忘れてしまうって言っていた。でもライサは、こんなに鮮明にミハイルさんとの過去を覚えている。
ああ、そうだ。ライサだけは最初から……ミハイルさんのこと嫌いながらも当主だってちゃんと認識してた。
「ふふふ」
「何笑ってるのよ? ……そうだ、安心して。あたし、ミオにはもう嫌がらせしたりしないから」
「え、うん。……ええ?」
えっと……どういうことだろう。
まぁいいか……深追いするのはやめておこう。だって――私は。
「ミオ」
不意に呼ばれて、騒ぎかけた胸を押さえつける。
ライサの方を見ると、その一瞬で姿を消していた。
どうして顔が熱くなろうとするんだろう……、深呼吸をして、振り返る。
うん。今日もとても不機嫌そうだ。
「なんでしょうか、ミハイルさん」
「朝食だから呼んでこいと、リエーフが」
「……ええと……」
いつにも増して不機嫌そうなのはそういうことか。
何故主人であるミハイルさんが従者であるリエーフさんに使われているのかと。突っ込んだところで余計不機嫌になるだけだろうなぁ。
「わかりました。すみません、呼びに来させてしまって」
「全くだ。……ライサと何を話していた」
ライサはすぐ逃げてしまったけど、ミハイルさんにはちゃんと見えていたらしい。
どうしようかな。ライサがミハイルさんにきつくあたる理由。言いたいけれど……きっと言えばライサは怒るだろう。それは少し困る。彼女はこの世界での、唯一の私の友人だから。
だから、人差し指を口元に当てる。
「女同士の秘密です」
怪訝な顔をするミハイルさんを見上げて、私はそう言って笑った。
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