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250.来訪者
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その時、屋敷の門の前に、一台の馬車が到着するのが見えた。
「………あれは………」
アルフォンシーナは思わず立ち上がった。
その馬車がシルヴェストリ侯爵家のものだと、確信したからだ。
慌てて窓に向かい、様子を窺う。
覗き見などはしたないと思いながらも、込み上げてくる不安の方が勝り、窓に張り付くようにして馬車を見つめた。
程なくして扉が開けられ、中から人影が出現する。
遠目でも分かる、金髪の美青年の姿に、アルフォンシーナは思わず息を呑んだ。
「ベルナルド、様…………」
彼の姿を目にするのは、一週間ぶりだ。
たったそれだけ顔を合わせなかっただけなのに、アルフォンシーナの心の中は、彼への想いであっという間にいっぱいになってしまう。
その事実に、アルフォンシーナは絶望した。
彼がパルヴィス伯爵邸を訪れた、ということは、おそらく離婚のための手続きが終わったということだろう。
だとすると、彼との結婚生活も終焉を迎え、もう彼と顔を合わせることはなくなるのだ。
たった一週間。
ーーーそう、たった一週間顔を合わせなかっただけでこんな気持ちになるというのに、この先もう会うことがなくなってしまえば、自分はどうなってしまうのだろうーーー。
離婚の手続きが終わったら、修道院へ行くと決めたにもかかわらず、その決意が
己の気持ちを握り潰すかのように、硝子に当てた右手を、強く握り締めると、よく手入れされた爪が掌を傷付け、隙間から血が滲んだ。
「ベルナルド様…………」
静かに、愛しい彼の名を口にする。
すると、あたかもその声が聞こえたかのようなタイミングで、ベルナルドがアルフォンシーナの方を見た。
「…………っ!」
思いがけない出来事に、アルフォンシーナは驚いてその場にしゃがみ込んだ。
別に隠れる必要などないのに、咄嗟に隠れてしまったのには、理由があった。
彼と顔を合わせれば、それが『最後』。
それが分かっているからこそ、本能的に身体が動いたのだ。
ベルナルドに会いたい気持ちと、会いたくない気持ち。
相反する欲求がアルフォンシーナの中でせめぎ合う。
(………でも、逃げたところで、何も変わらないわ………)
ふと、そんな気持ちが浮かび上がってきた瞬間、アルフォンシーナは腹を括るしかないと、決心をした。
「………あれは………」
アルフォンシーナは思わず立ち上がった。
その馬車がシルヴェストリ侯爵家のものだと、確信したからだ。
慌てて窓に向かい、様子を窺う。
覗き見などはしたないと思いながらも、込み上げてくる不安の方が勝り、窓に張り付くようにして馬車を見つめた。
程なくして扉が開けられ、中から人影が出現する。
遠目でも分かる、金髪の美青年の姿に、アルフォンシーナは思わず息を呑んだ。
「ベルナルド、様…………」
彼の姿を目にするのは、一週間ぶりだ。
たったそれだけ顔を合わせなかっただけなのに、アルフォンシーナの心の中は、彼への想いであっという間にいっぱいになってしまう。
その事実に、アルフォンシーナは絶望した。
彼がパルヴィス伯爵邸を訪れた、ということは、おそらく離婚のための手続きが終わったということだろう。
だとすると、彼との結婚生活も終焉を迎え、もう彼と顔を合わせることはなくなるのだ。
たった一週間。
ーーーそう、たった一週間顔を合わせなかっただけでこんな気持ちになるというのに、この先もう会うことがなくなってしまえば、自分はどうなってしまうのだろうーーー。
離婚の手続きが終わったら、修道院へ行くと決めたにもかかわらず、その決意が
己の気持ちを握り潰すかのように、硝子に当てた右手を、強く握り締めると、よく手入れされた爪が掌を傷付け、隙間から血が滲んだ。
「ベルナルド様…………」
静かに、愛しい彼の名を口にする。
すると、あたかもその声が聞こえたかのようなタイミングで、ベルナルドがアルフォンシーナの方を見た。
「…………っ!」
思いがけない出来事に、アルフォンシーナは驚いてその場にしゃがみ込んだ。
別に隠れる必要などないのに、咄嗟に隠れてしまったのには、理由があった。
彼と顔を合わせれば、それが『最後』。
それが分かっているからこそ、本能的に身体が動いたのだ。
ベルナルドに会いたい気持ちと、会いたくない気持ち。
相反する欲求がアルフォンシーナの中でせめぎ合う。
(………でも、逃げたところで、何も変わらないわ………)
ふと、そんな気持ちが浮かび上がってきた瞬間、アルフォンシーナは腹を括るしかないと、決心をした。
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