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249.出戻り

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 それから一ヶ月後。
 アルフォンシーナは実家であるパルヴィス伯爵邸にある自室で一人、刺繍に勤しんでいた。
 離婚の手続きが正式に終わるまでは、人目につく行動は避けるべきだと判断し、三日前にこのパルヴィス伯爵家に戻ってきてからは、殆ど部屋の外に出ることなく生活をしていた。
 両親は領地に出掛けていて不在だし、使用人達も出戻り令嬢であるアルフォンシーナに対して、彼女の望み通りに接してくれていた。
そんな扱いに、アルフォンシーナは感謝しつつも、居心地の悪さを感じざるを得なかった。

「………」

 集中力が切れてしまい、布地と針を机の上に置く。
 ふと、窓の方に目を遣ると、綺麗な青空が視界に入った。

 呆れ返るほどに、澄み渡った青空。
 その蒼さがあまりにも眩しくて、アルフォンシーナは思わず溜息を吐いた。
 自分がベルナルドに嫁いだあの日とは真逆だ。

「………わたくしったら………」

 何につけても、ベルナルドの事を思い出している事に気が付き、自嘲する。

 荷物を纏め終わり、屋敷を出ていく事を告げると、ベルナルドは「そうか」と返事をしただけで、何も言わなかった。
 シルヴェストリ侯爵邸を発つ時も、ソフィアやビアンカ達は泣きながら見送ってくれたが、肝心のベルナルドは姿を現さなかった。

 もう自分を偽る必要がなくなったのだから、カモフラージュお飾りの妻は不用意ということなのだろう。
 結局、ベルナルドにとっての自分の存在とは、その程度のものだったのだろう。

 アルフォンシーナはゆっくりと目を閉じると、天を仰いだ。

 物語のような、誰もが羨ましがるような恋ではなくとも、お互いに信頼し、尊重し合える夫婦になりたいーーー。
 それが、結婚当初のアルフォンシーナの願いだった。
 だが、蓋を開けてみれば、結婚自体も彼の仕事を助けるための偽装結婚のようなものであり、彼は別の女性ーーーそれも年上の、平民女性に恋をしている。
 それなのに自分ときたらそんな事も知らないで、一人浮かれていたという事実は、アルフォンシーナを打ちのめすには充分過ぎるものだった。

「………惨めね。………本当に、惨めだわ………」

 アルフォンシーナの他は誰もいない、静まりかえった部屋の中で、独りそう呟いた。

 一体、何がいけなかったのだろう。
 どうしてこんな事に、なってしまったのだろう。

 ベルナルドは、『あなたは、何も悪くない』と何度もくり返したが、本当にそうだったのだろうか。
 考えても考えても、その答えは出てこなかった。
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