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238.晩餐

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 重い足取りで食堂へと向かうと、そこには既にベルナルドが待っていた。

「お待たせして、申し訳ございません」

 アルフォンシーナが深く腰を落として仰々しい挨拶をすると、ベルナルドは少し驚いたようだった。

「…………いや、私も今来たところだ。あなたが謝罪する必要はない」

 素っ気なく答えたベルナルドは、すぐにアルフォンシーナから目を逸らした。
 ーーー別に、いつものことだ。
 ベルナルドの行動を見たアルフォンシーナは、、心の底からそう思った。

 ここのところ、ベルナルドとの関係が改善したような気がしたが、そもそも彼は自分との婚姻に納得していたわけではない。
 あくまでも彼の『仕事』の都合でそうしていただけの事なのだ。
 だからこそ、彼の全てが明らかになった今、取り繕う必要もなくなったのだろう。

「……………」

 アルフォンシーナは薄っすらと紅を引いた唇を引き結ぶと、そのまま席についた。
 向かいに佇むベルナルドも、アルフォンシーナにつられるように、着席した。

 そのまま互いに会話を交わすことのない、沈黙の晩餐が始まる。
 こうしてベルナルドと食事をするのは、結婚してから二度目だった。
 前回の時も、味など全く分からずにスープを口にするのが精一杯だったが、今回は更に酷く、まるで砂でも口に入れているような感覚だった。

「………休めなかったか?」

 アルフォンシーナの食事が進んでいない事に気がついたベルナルドが、すかさず尋ねてきた。
 だがアルフォンシーナは小さく首を振った。

「いえ、充分に休めました」
「その割には食事が進んでいないようだが?」

 尋ねてきたベルナルドに対して素っ気なく答えるが、ベルナルドは尚もアルフォンシーナを問い詰めた。

「………あまり、食欲がないのです」

力なく微笑むと、手にしていたカトラリーを置いた。
食欲がないのは、嘘ではない。
空腹か満腹か、と尋ねられれば間違いなく前者のほうだが、何かを口にしたいという気持ちは皆無に等しかった。

「あなたは殆ど食事を口にしていない筈だ。食欲はなくとも、食べたほうがいい。………果物や甘いものならどうだ?」

出来ることならば放っておいて欲しいのに、ベルナルドは容赦なくアルフォンシーナを責め立てた。
だが、その中にもアルフォンシーナに対する気遣いがかんじられ、それがよりアルフォンシーナの胸を締め付けた。

「………お気遣い、ありがとうございます。ですが、食べられそうな物を頂いておりますので、大丈夫ですわ」

ベルナルドの申し出をやんわりと断ると、再びスプーンを手にして、無理矢理スープを口へと運ぶ。
少し冷めたスープはやはり、砂の味に感じられた。
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