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189.罪人

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「夫人が謝罪する必要などないよ。………時に夫人。真に謝罪すべきなのは、忠臣の皮を被った極悪人だと思わないかい?」

 フェルディナンドは爽やかな笑顔を浮かべて見せた。
 それから徐ろに立ち上がると、部屋の後方に控えていた衛兵たちへと合図を送った。
 するとその合図を待っていたと言わんばかりに、衛兵たちは素早い動きで部屋の扉を開けた。

「むぐぐっ!」

 姿が見えるより前に、くぐもった叫び声が聞こえた。
 次いで扉が完全に開ききるとと、身動きがとれないように縄を打たれ、猿轡をされた姿のまま、腕を左右から衛兵に捕まれたベッリーニ侯爵が引き摺られてきた。
 衛兵たちは容赦なく、縛られてもなお抵抗するベッリーニ侯爵をアルフォンシーナたちの横まで連れてくると、力任せに押さえつけて床へと這い蹲らせた。

 その様子を見た周囲の貴族達の間から、一瞬どよめきが起こった。
 事情を知らない彼らが驚くのは当然だろう。
 信じられないとでも言うように、首を左右に振る者も中にはいたが、それ以上に誰しも皆、何かの間違いなのではないだろうかとでも言うかのように、ただ茫然と侯爵を見つめていた。
 床に這い蹲らされたベッリーニ侯爵は、持ち前のかんの良さでその空気を感じ取ったのだろう。
 わざと人々から同情を買うように、哀れっぽく声を上げた。

「むぅっ…………!」

 ベッリーニ侯爵が一体何を言っているのかは全くわからなかったが、今は東面難を逃れようと必死になっていることだけは窺い知ることができた。

「…………煩いな」

 玉座から立ち上がっていたフェルディナンドが、心底鬱陶しそうに顔を歪めた。
 そして、それを見たベルナルドが、フェルディナンドの気持ちを代弁するかのように小さく呟いた。

「むうっ!むぐっ、むぐう!」

 しかしベッリーニ侯爵は気に留める様子もなく、更に威勢よく騒ぎ立てる。
 あまりの精神面の強さに、アルフォンシーナは閉口するしかなかった。

「私は宰相に発言を許可した覚えはないが…………?」

 フェルディナンドは乱暴に腰を下ろすと、これ見よがしに長い足を組んだ。
そして溜息とともに呟く。

「!」

あからさまにフェルディナンドの機嫌が悪くなった事をようやく悟ったらしいベッリーニ侯爵は、慌てた様子で口を噤んだ。
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