国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

149.ブルーノの妄想

「あ…………」

意識の覚醒とともに視界の方も一気に拓けてきた途端、アルフォンシーナの目の前には、強い嫉妬心を露わにしたブルーノの顔があった。

「わたくし………」
「覚えていないのかい？………だったらそれでも構わないけれどね」

ブルーノはアルフォンシーナの枕元に座ったまま、くつくつと笑い声を上げた。
ただそれだけの行動なのに、アルフォンシーナはブルーノに対して強い嫌悪感を覚えた。
彼から少しでも距離を取ろうと、必死にベッドから起き上がった。

「………っ」

途端にずきり、と頭の奥から突き上げるような鋭い痛みが襲ってきて、アルフォンシーナは顔を顰めた。

「ああ、ほら………急に動いたりするから………。まだ完全に薬が抜けきっていないんだから、大人しくしていて欲しいなあ」

いつも通りにブルーノが弱々しく笑うが、彼の両目には強いギラギラとした光が宿っていた。

「く………薬………？」

ブルーノの言葉に、アルフォンシーナは戦慄を覚えた。
まさか、アルフォンシーナが意識を失っている間に何か良からぬものでも使われたのだろうか。

アルフォンシーナが一気に青褪めたことに気がついたらしいブルーノは、またしても微笑みを浮かべた。

「ああ………そんなに心配することないよ。ここに連れてきてあげるために使った薬だからね。少しの間は影響が残るらしいから本当なら使いたくはなかったんだけれどね………」

ごめんね、と呟きながらも、ブルーノは悪びれる様子はなかった。

「でもこれで、ようやく君をあの男の支配から解放してあげることが出来た。だからもう、あの男を慕っているフリなんてする必要はないからね？」

大きく両手を広げ、晴れ晴れとした表情を浮かべるブルーノは、自身の行動を誇るかのようだった。
アルフォンシーナはそんな幼馴染の姿を、冷たい視線で見つめていた。

（ブルーノには、真実が全く見えていないんだわ………）

ブルーノの中では、ベルナルドは諸悪の根源であり、アルフォンシーナは彼に囚われたヒロイン、そしてブルーノ自身はヒロインを救出するヒーローというストーリーが出来上がっているのだろう。
だがそれは、あくまでもブルーノが勝手に思い描いた妄想の話であって、実際の立場とすれば真逆に近かった。