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137.温もり

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 するとベルナルドははっと息を呑み込んだあと、暫く固まった。
 無言のまま凝視され、アルフォンシーナはどうしたら良いのかが分からず、恥ずかしそうに俯いた。

(………旦那様に言われたとおりにしたけれど………、やはり不快に思われたから何も仰られないのかしら………)

 先程の沈黙とは異なる、威圧感のある沈黙が重くアルフォンシーナにのしかかってくる。

「………あの、だんなさ……………ベルナル、ド様?」

 ベルナルドの反応があまりにもない事が不安で仕方なくなったアルフォンシーナは、ベルナルドに声を掛ける。
 だがその際にもうっかり『旦那様』と呼びかけてしまいそうになった。
 それを必死に堪え、何とかベルナルドの名を紡ぎ出す。
 恥ずかしさと不慣れさのせいなのか、スムーズに呼掛けることが出来ずに途切れ、不自然な間が出来てしまう。
 これでは更にベルナルドの機嫌を損ねてしまうと思い、アルフォンシーナは恐る恐る顔を上げた。

 すると、突然ベルナルドが咳き込み始めた。

「大丈夫ですか?」

 突然の事態にアルフォンシーナは慌ててベルナルドの背に手を伸ばしてゆっくりと擦る。

「ゴホッ…………、あ、あぁ………問題ない…………っ」

 大きく何度か咳き込むと、ベルナルドは何とか深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとしているようだった。

 しかし、耳まで真っ赤に染め上げて、尚も咳をする様子はどこからどう見ても、『大丈夫』でははない。

「………これならば、なんとか顔を苦しさを堪えて………」

 ベルナルドは静かに二、三言呟いたかと思うと、急に頭を振り始めた!。

「ベルナド、様…………?…………きゃあっ」

 アルフォンシーナが小首を傾げると、突然大きな影が行く手を遮った。
 その大きな影がベルナルド・シルヴェストリその人のせいだと気がつくのには、さほど時間はかからなかった。

 ぎゅっと体を圧迫する、息苦しさ。
 ふわりと香る、男らしい彼の匂い。
 そして、密着した肌の温もり。

 アルフォンシーナはこれ以上ないくらいに目を大きく見開いた後、春先に硬い花の蕾がふわりと綻ぶような、柔らかな笑顔を浮かべた。
 そして、ゆっくりと両眼を閉じると、自分を抱き締めてくれているベルナルドの背中に、そっと自らの腕を回したのだった。
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