国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

玉響

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136.名前

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(まさか………でも、そんな筈は…………)

ベルナルドに限ってあり得ない。
アルフォンシーナは頭の中でその可能性を必死に否定した。

ブルーノだけが名前を呼ばれていることに対してベルナルドが嫉妬しているなどという考え自体が、酷い自惚れだとしか思えない。
いくらベルナルドが自分に優しくなったからといって、夫婦としての関係は破綻しているーーー、いや初めから夫婦とすら呼べない関係が続いていると言うべきだろうか。とにかく、男女の間にあるような感情は一切ない。
それなのに嫉妬心など、生ま
れるはずがないのだ。

唯一可能性として考えられるとしたら、『妻』という名の所有物が他人の物になりかけているという状況に腹を立てたのかもしれない、ということだった。
だが仮にそうだとしたら、なおさらベルナルドに対する接し方が分からなくなってしまう。

「……………」

重苦しい沈黙が空間を支配した。
どんな反応を返すのが正解なのかも分からぬままに、ただじっとしていることしかできない。
時折ちらちらとベルナルドの方を盗み見る以外は、静かにその場にうずくまった。

「………私の名を口にするのは、そんなにも嫌なことなのか?」

一体どれほどの時間が過ぎたのだろうか。
先に静寂を破ったのは、ベルナルドの方だった。

「………いえ、そういう、訳では…………」

緊張のせいなのか、カラカラに乾いた喉から紡がれる声は、酷く嗄れて聞こえた。

「ならば何故、私を呼ばない?知らな訳ではあるまいに」

ベルナルドはアルフォンシーナに、文字通り迫るように近寄ってきた。
驚きと戸惑いに、アルフォンシーナは思わず一歩後ずさった。

「逃げることは、許さない」

今迄見たこともないくらいに、強い意志を宿したベルナルドの深い瑠璃色の瞳が、アルフォンシーナを正面から射抜いた。

「……………っ」

最早脅迫でしかない状況まで追いつめられ、アルフォンシーナは混乱しながらもゆっくりと、口を開いた。

「べ…………、ベルナルド、様…………?」

ベルナルドの名を口にした途端に、今迄感じたことのないような熱が一気に広がっていくのがわかった。
たかが名前なのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
アルフォンシーナは
信じられない位に早く脈打つ心臓を宥めるように、ぎゅっと胸のあたりを強く掴んだ。
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