131 / 311
130.アルフォンシーナの策
しおりを挟む
自室に戻ったアルフォンシーナは、早速ペンを手に取ると、手紙を書き始めた。
「………こんな気持ちで手紙を書くのは初めてだわ………」
誰に話しかけるわけでもなく、広い部屋の中で独り静かに呟きながらアルフォンシーナは、ペン先を走らせ続ける。
そんな環境の中でも自分で驚くほどに、次々と文章は頭の中に思い浮かんだ。
まっさらだった白紙が、みるみるうちにインクの黒で染め上げられていく。
それは、まるでアルフォンシーナの心の中で渦巻いているブルーノへの嫌悪と失望の感情のようだった。
五分程が経ち、アルフォンシーナは静かにペンを机の上に置いた。
「………出来たわ………」
吐息を零し天井を仰ぐと、たった今書き上げたばかりの手紙に視線を落とす。
そして、文章におかしな部分がないか、隅から隅まで念入りに確認をした。
「………これで、ブルーノが正直に話してくれればいいのだけれど………」
アルフォンシーナはもう一度じっと手紙を見つめる。
そこには、シルヴェストリ侯爵家の使用人が突然押しかけた事に対しての謝罪と、贈り物はベルナルドの機嫌が悪くなるから止めて欲しいということ。
そして、もうすぐブルーノの母親であるタルディッリ男爵夫人の命日になるから、彼女を偲び、思い出話をしたいということ。
しかし、互いに世間体が悪くなってもいけないので直接会うことは叶わないが、こうして手紙の遣り取りをして在りし日の夫人を思い出したい、という事が綴られていた。
これならば少なくともブルーノがシルヴェストリ侯爵家の人間に危害を加えることはないだろう。
それに、万が一手紙の内容が露呈したり、密通などの疑いがかけられたとしても、やましい事はしていないと胸を張って言える。
あとはこの手紙の内容を素直にブルーノが受け入れてくれれば、まずはアルフォンシーナの策は成功したと言えるだろう。
「うまくブルーノが食いついてくれさえすれば、後の手紙の中で、『協力者』が一体誰なのかをさりげなく引き出していけばいいだけだわ…………」
ブルーノを騙すような形になる事に、罪悪感が無い訳ではない。
だがそれ以上に、彼がビアンカへとした仕打ちについて、許すことができるとも思えなかった。
アルフォンシーナは小さく溜息をつくと、祈るような気持ちで沢山の文字が綴られた便箋を丁寧に折っていく。
そして、便箋と揃いの封筒を手に取り、そっと、封筒の中に便箋をしまったのだった。
「………こんな気持ちで手紙を書くのは初めてだわ………」
誰に話しかけるわけでもなく、広い部屋の中で独り静かに呟きながらアルフォンシーナは、ペン先を走らせ続ける。
そんな環境の中でも自分で驚くほどに、次々と文章は頭の中に思い浮かんだ。
まっさらだった白紙が、みるみるうちにインクの黒で染め上げられていく。
それは、まるでアルフォンシーナの心の中で渦巻いているブルーノへの嫌悪と失望の感情のようだった。
五分程が経ち、アルフォンシーナは静かにペンを机の上に置いた。
「………出来たわ………」
吐息を零し天井を仰ぐと、たった今書き上げたばかりの手紙に視線を落とす。
そして、文章におかしな部分がないか、隅から隅まで念入りに確認をした。
「………これで、ブルーノが正直に話してくれればいいのだけれど………」
アルフォンシーナはもう一度じっと手紙を見つめる。
そこには、シルヴェストリ侯爵家の使用人が突然押しかけた事に対しての謝罪と、贈り物はベルナルドの機嫌が悪くなるから止めて欲しいということ。
そして、もうすぐブルーノの母親であるタルディッリ男爵夫人の命日になるから、彼女を偲び、思い出話をしたいということ。
しかし、互いに世間体が悪くなってもいけないので直接会うことは叶わないが、こうして手紙の遣り取りをして在りし日の夫人を思い出したい、という事が綴られていた。
これならば少なくともブルーノがシルヴェストリ侯爵家の人間に危害を加えることはないだろう。
それに、万が一手紙の内容が露呈したり、密通などの疑いがかけられたとしても、やましい事はしていないと胸を張って言える。
あとはこの手紙の内容を素直にブルーノが受け入れてくれれば、まずはアルフォンシーナの策は成功したと言えるだろう。
「うまくブルーノが食いついてくれさえすれば、後の手紙の中で、『協力者』が一体誰なのかをさりげなく引き出していけばいいだけだわ…………」
ブルーノを騙すような形になる事に、罪悪感が無い訳ではない。
だがそれ以上に、彼がビアンカへとした仕打ちについて、許すことができるとも思えなかった。
アルフォンシーナは小さく溜息をつくと、祈るような気持ちで沢山の文字が綴られた便箋を丁寧に折っていく。
そして、便箋と揃いの封筒を手に取り、そっと、封筒の中に便箋をしまったのだった。
144
お気に入りに追加
1,020
あなたにおすすめの小説

貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

さようなら、わたくしの騎士様
夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。
その時を待っていたのだ。
クリスは知っていた。
騎士ローウェルは裏切ると。
だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

愛なんてどこにもないと知っている
紫楼
恋愛
私は親の選んだ相手と政略結婚をさせられた。
相手には長年の恋人がいて婚約時から全てを諦め、貴族の娘として割り切った。
白い結婚でも社交界でどんなに噂されてもどうでも良い。
結局は追い出されて、家に帰された。
両親には叱られ、兄にはため息を吐かれる。
一年もしないうちに再婚を命じられた。
彼は兄の親友で、兄が私の初恋だと勘違いした人。
私は何も期待できないことを知っている。
彼は私を愛さない。
主人公以外が愛や恋に迷走して暴走しているので、主人公は最後の方しか、トキメキがないです。
作者の脳内の世界観なので現実世界の法律や常識とは重ねないでお読むください。
誤字脱字は多いと思われますので、先にごめんなさい。
他サイトにも載せています。

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
(完結)「君を愛することはない」と言われて……
青空一夏
恋愛
ずっと憧れていた方に嫁げることになった私は、夫となった男性から「君を愛することはない」と言われてしまった。それでも、彼に尽くして温かい家庭をつくるように心がければ、きっと愛してくださるはずだろうと思っていたのよ。ところが、彼には好きな方がいて忘れることができないようだったわ。私は彼を諦めて実家に帰ったほうが良いのかしら?
この物語は憧れていた男性の妻になったけれど冷たくされたお嬢様を守る戦闘侍女たちの活躍と、お嬢様の恋を描いた作品です。
主人公はお嬢様と3人の侍女かも。ヒーローの存在感増すようにがんばります! という感じで、それぞれの視点もあります。
以前書いたもののリメイク版です。多分、かなりストーリーが変わっていくと思うので、新しい作品としてお読みください。
※カクヨム。なろうにも時差投稿します。
※作者独自の世界です。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる