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129.糸口

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「確かにあなたの言う通りだわ、ビアンカ」

パニック状態であっただろう中で、よくそのような細かな事まで記憶していたものだとビアンカに感心しつつ、アルフォンシーナは深く頷いた。

いくらブルーノが男爵家の子息とはいえ、貴族であることには違いない。
それにも関わらず、使用人という立場である御者が彼に命令したというのは、普通であれば考えられない事だ。
だが、考えられることが無い訳でもなかった。
一つは御者がブルーノの立場を知らなかった場合。
そしてもう一つはその御者の主がブルーノの家よりも遥かに高い地位にあり、御者自身もブルーノに敬意を払う必要がない場合だ。

「……………」

アルフォンシーナは黙ったまま考え込む。
前者の方があり得そうな話だが、後者の可能性も否定はできない。
そもそも、ブルーノの生家であるタルディッリ男爵家は経済的にも地位的にも恵まれておらず、更には女主人が不在という苦しい立場に置かれていた。
アルフォンシーナの実家であるパルヴィス伯爵家の人々はタルディッリ男爵家の立場の低さなど気にしていなかったが、社交界ではあからさまにタルディッリ男爵家を莫迦にしたり見下したりしている家も少なくない。
特に高位貴族達の中には、言葉を交わすことすらも避ける者すらいた。

「でも………彼を嫌っているような高位貴族の方々がブルーノに手を貸すなどと考えるとは思えないわ………」

真剣になり過ぎていて、自らの考えを口に出してしまっていることすらも気が付いていなかった。

「そうですね………」

アルフォンシーナの独り言に、ビアンカは相槌を打ってくれた。

「もっと細かな事まで覚えていられれば良かったのですが………」
「いいえ、あなたは十分過ぎるほどによくやってくれたわ」

アルフォンシーナはビアンカに向かって微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。

「………奥様?」

不思議そうにアルフォンシーナをみるめる。
すると、アルフォンシーナは無言のまま、ゆっくりと頷く。

「とても貴重な情報をありがとう。来たばかりで申し訳ないけれど、一旦情報の整理をしたいから、部屋に戻るわ」
「え、ええ………それは別に構いませんが………」

本当に少しずつ、少しずつではあるが、一連の騒ぎの糸口が見付かりそうな気がしてきた。

(………部屋に戻ったら、一度ブルーノに手紙をしたためてみましょう………)

アルフォンシーナは優雅にドレスの裾を翻すと、ビアンカの部屋を後にしたのだった。
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