130 / 253
129.糸口
しおりを挟む
「確かにあなたの言う通りだわ、ビアンカ」
パニック状態であっただろう中で、よくそのような細かな事まで記憶していたものだとビアンカに感心しつつ、アルフォンシーナは深く頷いた。
いくらブルーノが男爵家の子息とはいえ、貴族であることには違いない。
それにも関わらず、使用人という立場である御者が彼に命令したというのは、普通であれば考えられない事だ。
だが、考えられることが無い訳でもなかった。
一つは御者がブルーノの立場を知らなかった場合。
そしてもう一つはその御者の主がブルーノの家よりも遥かに高い地位にあり、御者自身もブルーノに敬意を払う必要がない場合だ。
「……………」
アルフォンシーナは黙ったまま考え込む。
前者の方があり得そうな話だが、後者の可能性も否定はできない。
そもそも、ブルーノの生家であるタルディッリ男爵家は経済的にも地位的にも恵まれておらず、更には女主人が不在という苦しい立場に置かれていた。
アルフォンシーナの実家であるパルヴィス伯爵家の人々はタルディッリ男爵家の立場の低さなど気にしていなかったが、社交界ではあからさまにタルディッリ男爵家を莫迦にしたり見下したりしている家も少なくない。
特に高位貴族達の中には、言葉を交わすことすらも避ける者すらいた。
「でも………彼を嫌っているような高位貴族の方々がブルーノに手を貸すなどと考えるとは思えないわ………」
真剣になり過ぎていて、自らの考えを口に出してしまっていることすらも気が付いていなかった。
「そうですね………」
アルフォンシーナの独り言に、ビアンカは相槌を打ってくれた。
「もっと細かな事まで覚えていられれば良かったのですが………」
「いいえ、あなたは十分過ぎるほどによくやってくれたわ」
アルフォンシーナはビアンカに向かって微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。
「………奥様?」
不思議そうにアルフォンシーナをみるめる。
すると、アルフォンシーナは無言のまま、ゆっくりと頷く。
「とても貴重な情報をありがとう。来たばかりで申し訳ないけれど、一旦情報の整理をしたいから、部屋に戻るわ」
「え、ええ………それは別に構いませんが………」
本当に少しずつ、少しずつではあるが、一連の騒ぎの糸口が見付かりそうな気がしてきた。
(………部屋に戻ったら、一度ブルーノに手紙をしたためてみましょう………)
アルフォンシーナは優雅にドレスの裾を翻すと、ビアンカの部屋を後にしたのだった。
パニック状態であっただろう中で、よくそのような細かな事まで記憶していたものだとビアンカに感心しつつ、アルフォンシーナは深く頷いた。
いくらブルーノが男爵家の子息とはいえ、貴族であることには違いない。
それにも関わらず、使用人という立場である御者が彼に命令したというのは、普通であれば考えられない事だ。
だが、考えられることが無い訳でもなかった。
一つは御者がブルーノの立場を知らなかった場合。
そしてもう一つはその御者の主がブルーノの家よりも遥かに高い地位にあり、御者自身もブルーノに敬意を払う必要がない場合だ。
「……………」
アルフォンシーナは黙ったまま考え込む。
前者の方があり得そうな話だが、後者の可能性も否定はできない。
そもそも、ブルーノの生家であるタルディッリ男爵家は経済的にも地位的にも恵まれておらず、更には女主人が不在という苦しい立場に置かれていた。
アルフォンシーナの実家であるパルヴィス伯爵家の人々はタルディッリ男爵家の立場の低さなど気にしていなかったが、社交界ではあからさまにタルディッリ男爵家を莫迦にしたり見下したりしている家も少なくない。
特に高位貴族達の中には、言葉を交わすことすらも避ける者すらいた。
「でも………彼を嫌っているような高位貴族の方々がブルーノに手を貸すなどと考えるとは思えないわ………」
真剣になり過ぎていて、自らの考えを口に出してしまっていることすらも気が付いていなかった。
「そうですね………」
アルフォンシーナの独り言に、ビアンカは相槌を打ってくれた。
「もっと細かな事まで覚えていられれば良かったのですが………」
「いいえ、あなたは十分過ぎるほどによくやってくれたわ」
アルフォンシーナはビアンカに向かって微笑むと、ゆっくりと立ち上がった。
「………奥様?」
不思議そうにアルフォンシーナをみるめる。
すると、アルフォンシーナは無言のまま、ゆっくりと頷く。
「とても貴重な情報をありがとう。来たばかりで申し訳ないけれど、一旦情報の整理をしたいから、部屋に戻るわ」
「え、ええ………それは別に構いませんが………」
本当に少しずつ、少しずつではあるが、一連の騒ぎの糸口が見付かりそうな気がしてきた。
(………部屋に戻ったら、一度ブルーノに手紙をしたためてみましょう………)
アルフォンシーナは優雅にドレスの裾を翻すと、ビアンカの部屋を後にしたのだった。
166
お気に入りに追加
1,048
あなたにおすすめの小説
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛女性向け連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる