上 下
128 / 270

127.回復

しおりを挟む
ベルナルドは数日後には全く問題なく日常生活を送れるようになった。
するとオリヴァーが止めるのも聞かずに、屋敷を出ていってしまったと聞いたアルフォンシーナは、呆然とするしかなかった。

「旦那様は…………、ルヌは特にどちらへ行かれるとも仰っていなかったのよね?」
「はい。それはいつものことですので………。ただ、奥様の周囲には特別気を遣うようにと言い残していかれましたよ」

神妙な面持ちで、けれどどこか嬉しそうにオリヴァーは告げた。
彼の目から見ても、ベルナルドとアルフォンシーナの関係は以前とは比べ物にならないほどに改善しているのだろう。
それはオリヴァーだけではない。ソフィアや他の使用人たちからも、ここのところ生温かい眼差しを向けられている気がするのは、おそらくそれが原因なのだろう。

「………そのように仰るならば、お顔位は見せて下されば良かったのに………」

オリヴァーの耳には届かぬほどの小さな声で呟くと、アルフォンシーナは立ち上がった。
そろそろ、ビアンカの見舞いに行く時間が近づいてきたことに気がついたからだ。

かなりの怪我を負っていたビアンカも、流石にベルナルドほどの身体能力のレベルがちがう「」少しずつではあるが快方へと向かっていた。
しかし、幾ら命に別状が無かったとは言っても、かなりの傷を負っているのは確かだった。

あの日に廊下でアルフォンシーナが耳にした侍女たちの会話の包帯は、ビアンカの為に掻き集められたらしいが、当然ながらベルナルドの怪我が発覚した後はビアンカよりもベルナルドの方に優先的に使われた。
それでもなお、あれだけの量の包帯で巻かれていることから、娼館で相当酷い扱いをされていたのだろう。

それを思うと居た堪れない気持ちになり、自己満足でしかないとは分かっていても、アルフォンシーナは毎日昼前と夕方頃の二回、ビアンカの様子を見に行っていた。

「ビアンカも、お忙しい奥様が一日に二度も顔を見せに来て下さるのが嬉しいと、申しておりましたよ」

穏やかな声でオリヴァーが教えてくれた。
自分のせいであんな目に遭ったというのに、まだ自分の事を慕ってくれているという事実に、アルフォンシーナは思わず涙が浮かんでくるの感じた。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

誤解の代償

トモ
恋愛
天涯孤独のエミリーは、真面目な性格と努力が実り、大手企業キングコーポレーションで働いている。キングファミリー次男で常務のディックの秘書として3年間働き、婚約者になった。結婚まで3か月となった日に、ディックの裏切りをみたエミリーは、婚約破棄。事情を知らない、ディックの兄、社長のコーネルに目をつけられたエミリーは、幸せになれるのか

順番を待たなくなった側室と、順番を待つようになった皇帝のお話 〜陛下!どうか私のことは思い出さないで〜

白猫
恋愛
主人公のレーナマリアは、西の小国エルトネイル王国の第1王女。エルトネイル王国の国王であるレーナマリアの父は、アヴァンジェル帝国との争いを避けるため、皇帝ルクスフィードの元へ娘を側室として差し出すことにした。「側室なら食べるに困るわけでもないし、痛ぶられるわけでもないわ!」と特別な悲観もせず帝国へ渡ったレーナマリアだが、到着してすぐに己の甘さに気付かされることになる。皇帝ルクスフィードには、既に49人もの側室がいたのだ。自分が50番目の側室であると知ったレーナマリアは呆然としたが、「自分で変えられる状況でもないのだから、悩んでも仕方ないわ!」と今度は割り切る。明るい性格で毎日を楽しくぐうたらに過ごしていくが、ある日…側室たちが期待する皇帝との「閨の儀」の話を聞いてしまう。レーナマリアは、すっかり忘れていた皇帝の存在と、その皇帝と男女として交わることへの想像以上の拒絶感に苛まれ…そんな「望んでもいない順番待ちの列」に加わる気はない!と宣言すると、すぐに自分の人生のために生きる道を模索し始める。そして月日が流れ…いつの日か、逆に皇帝が彼女の列に並ぶことになってしまったのだ。立場逆転の恋愛劇、はたして二人は結ばれるのか? ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。 他サイトでも掲載中の作品です。 一応、短編予定ですが長引きそうであれば長編に変更致します。 応援よろしくお願いします(^^)

処理中です...