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120.目撃

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重い足取りで部屋に戻ったアルフォンシーナは、疲れたから休むと伝え、ソフィアを下がらせた。

ソファに腰を下ろすと、横に置いてあったゴブラン織りのクッションを手に取り抱きしめる。
そして、アルフォンシーナはゆっくりと目を閉じた。

「………どうして………」

アルフォンシーナの中では、色々な感情が入り混じっていた。

オリヴァーとソフィアや屋敷の使用人たちへの感謝。
ベルナルドとビアンカの体調の心配。
愚かな自分自身と、ブルーノへの怒り。
そしてベルナルドへの想いーーー。
複雑に混ざり合い、絡み合う感情。
アルフォンシーナ自身も、自分自身の心が分からない。
ただただはっきりとしないモヤモヤした気持ちだけが膨れ上がっていくようだった。
心が重い、というのはこういう事を言うのだろう。
ベルナルドに冷たくされていた時期とはまた違う苦しさだと思った。

「………」

行儀が悪いと思いながらも、そのまま横に倒れる。
そして更に強くクッションを握った。

いっそ誰かに、罵られたほうが楽なのかもしれない。
自分を責めるのは自分だけで、ベルナルドもビアンカもアルフォンシーナを責めることはしない。
だが却ってそれがアルフォンシーナを苦しめていた。

溜息を一つ零すと、目を開けて起き上がる。
こうして物思いに耽っていても、気持ちが晴れることはなかった。
それどころか、罪悪感は増すばかりだった。

アルフォンシーナは徐ろに立ち上がり、何となく窓の方へと近づいた。
外の風に当たれば少しは気が晴れるかもしれないと思ったからだ。

綺麗に磨き上げられた硝子を支える窓枠に手を掛け、そっと力を込めた、まさにその時だった。

「…………っ!」

丁度シルヴェストリ侯爵家の広い庭の隅に、ブルーノの姿を認め、アルフォンシーナは目を見開いた。
ブルーノは、地味な服を身に纏い、大きなハコヤナギの木の影に隠れるように佇んでいた。

(………一体何故ブルーノが………?)

ブルーノは以前の騒動でシルヴェストリ侯爵邸を追い出されている。
つまり常識的に考えれば出入り禁止を言い渡されたも同然だ。
それなのにあのような人目につかない場所に隠れているということは、自分がシルヴェストリ侯爵邸この場所にいてはならない存在だという事を分かっていて、忍び込んだに違いなかった。
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