国一番の淑女結婚事情〜政略結婚は波乱の始まり〜

117.困惑と衝撃

疑いながらも、心の中ではブルーノは無関係だと、そう思っていた。ーーーいや、そう信じようとしていた。
だが、そのささやかな願いはものの見事に裏切られた。
アルフォンシーナは胸の中が、冷たさを孕んだ喪失感で浸食されていくのを感じた。

しかしその一方で「やはりそうだったのか」という気持ちの存在も否定は出来なかった。
大きな衝撃を受けてこそいたが、心のどこかでは、とっくに気がついていた。
それなのに、その気持ちを見て見ぬふりをして、無視し続けていたのは自分自身だ。
その現実を突きつけられたアルフォンシーナは、目の前が真っ暗になるようだった。

「………奥様、顔色が真っ青ですよ」

アルフォンシーナの傍らでビアンカの話を聞いていたソフィアが、主の異変に気がついて、心配そうに声を掛けてきた。
自分でも、血の気が引いていることは気がついていたが、今はそんな事に気を取られて居る場合ではない。

「………わたくしは大丈夫よ。続けて頂戴」
　
何とか平常心を装い、声を絞り出した。
ビアンカもソフィアも、心配そうな面持ちでアルフォンシーナを見る。
そんな彼女達に対して、アルフォンシーナは深く頷いて見せた。

「………タルディッリ男爵子息様は、私が奥様の侍女であることを、しっかりと認識なさっていて………。馬車でシルヴェストリ侯爵邸へと送るから、その代わりに奥様の様子を聞かせて欲しいと仰られました」

ビアンカの説明を受けながら、アルフォンシーナは記憶の糸を手繰った。
確かブルーノがアルフォンシーナを訪ねてシルヴェストリ侯爵邸を訪れた際、アルフォンシーナと共にいたのはソフィアではなく、ビアンカだった。
他家の侍女の顔をはっきりと認識出来るほど、ブルーノの記憶力が良かったとは思えなかったが、ビアンカの話から察するに、ブルーノはビアンカが誰だか分かっていて害を加えた、ということになる。

「私は勿論、断りました。奥様の様子を話さなければならない理由もありませんし、男爵子息様の馬車で送っていただく理由もありませんから。何より………その、奥様には申し訳ないのですが、あの方と話をすること自体が生理的に無理で………」

ビアンカはやや俯き、本心を明かしてくれた。彼女の中でのブルーノの印象は最悪なのだろう。
そんな男に声をかけられれば、当然断るだろう。
アルフォンシーナはビアンカの行動に共感しつつ、次のビアンカの説明を待った。