上 下
108 / 220

107.誘拐事件

しおりを挟む
再び微妙な沈黙が、空間を支配した。
会話が続かないのは、互いに上手く関係が築けていないからなのだろうかと思いながら、アルフォンシーナはベルナルドが好みそうな話題を考えていると、徐ろにベルナルドが口を開いた。

「………ビアンカの誘拐の件だが………」

アルフォンシーナはびくりと肩を揺らした。
行方不明、ではなくベルナルドははっきりと『誘拐』という言葉を口にしたからだ。

「………今回はビアンカが標的になったが、は我がシルヴェストリ侯爵家の人間を狙っている。もし、ビアンカが遣いに行かなかったとしても、別の誰かが狙われていただろう。だから、あなたが気に病む事は全くない」

ベルナルドの美しい瑠璃色の瞳が、真っ直ぐにアルフォンシーナへと向けられた。
敵、という言葉に、アルフォンシーナは息を呑む。
間違いなく、ベルナルドは犯人が誰なのかを理解している。
しかも、その相手はこちらに明らかな敵意を持っているのだろう。
しかし、だからといってアルフォンシーナの罪悪感が消えるわけではなかった。

「………ですが、ブルーノを上手くあしらう事も出来ず、このような結果を招いたという事実には変わりありません。旦那様にまでこのような怪我を負わせてしまい………誠に申し訳ありません」

アルフォンシーナは椅子から立ち上がると、深々と頭を下げた。
その動きに連動して、彼女の緩やかに波打った見事な銀髪が、さらりと落ちてくる。
そのせいで、ベルナルドが『ブルーノ』という単語に酷く反応していた事に、アルフォンシーナは気が付かなかった。

「………いや、あなたは何も悪くない。このような結果を防げなかったのは、ひとえに私の力不足だし、この怪我は………因果応報、とでも言うべきものだ」

頭を上げたアルフォンシーナは、訝しげに眉を顰めた。
ベルナルドは一体何を言っているのだろう。
ビアンカの事件については、もしかしたらシルヴェストリ侯爵家の当主としての責任を感じているのかもしれないが、因果応報とは何のことなのだろうか。

「………その怪我は、ビアンカを救出する際に負ったものなのですよね?それなのに、因果応報とは………?」

アルフォンシーナは躊躇いがちに、ベルナルドに疑問をぶつける。
するとベルナルドは自嘲の笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

浮気をした王太子が、真実を見つけた後の十日間

田尾風香
恋愛
婚姻式の当日に出会った侍女を、俺は側に置いていた。浮気と言われても仕方がない。ズレてしまった何かを、どう戻していいかが分からない。声には出せず「助けてくれ」と願う日々。 そんな中、風邪を引いたことがきっかけで、俺は自分が掴むべき手を見つけた。その掴むべき手……王太子妃であり妻であるマルティエナに、謝罪をした俺に許す条件として突きつけられたのは「十日間、マルティエナの好きなものを贈ること」だった。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

(完結)私の夫を奪う姉

青空一夏
恋愛
私(ポージ)は爵位はないが、王宮に勤める文官(セオドア)の妻だ。姉(メイヴ)は老男爵に嫁ぎ最近、未亡人になったばかりだ。暇な姉は度々、私を呼び出すが、私の夫を一人で寄越すように言ったことから不倫が始まる。私は・・・・・・ すっきり?ざまぁあり。短いゆるふわ設定なお話のつもりです。

処理中です...