102 / 220
101.瀕死のベルナルド
しおりを挟む
「旦那様」
今度はやや強めの声でベルナルドに呼び掛けると、ベルナルドが微かに身じろぎをした。
「旦那様!」
「ア………ルフォンシーナ………?」
アルフォンシーナの手が触れた肩が、大きく揺れたかと思うと、ベルナルドがごろりと仰向けに体勢を変えた。
ようやく暗闇に目が慣れてきたのか、ベルナルドが押さえている左脇腹から、赤黒い血が流れ出ているのがはっきりと見えた。
ベルナルドに初めて名前を呼ばれたという事実に気が付かないくらいに、アルフォンシーナはその光景に衝撃を受けた。
「こんな傷を負っているのに、どうして何も仰らなかったのです?!」
アルフォンシーナが声を荒げると、ベルナルドは喉の奥で嗤った。
「………あなたが、私の事でそんなふうに怒るとは思わなかった」
深い吐息と共に、穏やかな声が響く。
「冗談を言っている場合ではないでしょう!お待ちください、今人を………」
とにかく一刻も早く手当をしなければ、間違いなく彼の命が危ないと判断したアルフォンシーナは、慌てて立ち上がろうとする。
だが、不意にベルナルドの手が伸びてきて、アルフォンシーナのか細い腕を掴んだ。
「…………っ!」
驚いたアルフォンシーナがベルナルドを見ると、彼は再び嗤った。
「………こんな掠り傷、大したことはない」
「莫迦な事を仰らないで下さい!これのどこが掠り傷だと言うのですか?」
つい先程まで意識を失っていたというのに、一体この男は何を言っているのだろう。
アルフォンシーナは彼の手を振り解いて、早く助けを呼びに行こうとするが、思いの外ベルナルドの力が強く、どんなにアルフォンシーナが抵抗しても、びくともしなかった。
「戯れはお止め下さい。そんな事をして命を落としたらどうするのです?」
アルフォンシーナは必死に訴えるが、ベルナルドは動じなかった。
「………あなたにとっては、私が死んだ方が都合が良いのではないか?」
次いで彼の口から出てきた衝撃的な言葉に、アルフォンシーナは目を見開いた。
「私が死ねば、あなたは自由になれる。私のような碌でもない、優しくもなければ、気遣いもない、名ばかりの夫に縛り付けられる理由も無くなる。………そうだろう?」
ベルナルドは自嘲の笑みを浮かべながら、そう囁いた。
今度はやや強めの声でベルナルドに呼び掛けると、ベルナルドが微かに身じろぎをした。
「旦那様!」
「ア………ルフォンシーナ………?」
アルフォンシーナの手が触れた肩が、大きく揺れたかと思うと、ベルナルドがごろりと仰向けに体勢を変えた。
ようやく暗闇に目が慣れてきたのか、ベルナルドが押さえている左脇腹から、赤黒い血が流れ出ているのがはっきりと見えた。
ベルナルドに初めて名前を呼ばれたという事実に気が付かないくらいに、アルフォンシーナはその光景に衝撃を受けた。
「こんな傷を負っているのに、どうして何も仰らなかったのです?!」
アルフォンシーナが声を荒げると、ベルナルドは喉の奥で嗤った。
「………あなたが、私の事でそんなふうに怒るとは思わなかった」
深い吐息と共に、穏やかな声が響く。
「冗談を言っている場合ではないでしょう!お待ちください、今人を………」
とにかく一刻も早く手当をしなければ、間違いなく彼の命が危ないと判断したアルフォンシーナは、慌てて立ち上がろうとする。
だが、不意にベルナルドの手が伸びてきて、アルフォンシーナのか細い腕を掴んだ。
「…………っ!」
驚いたアルフォンシーナがベルナルドを見ると、彼は再び嗤った。
「………こんな掠り傷、大したことはない」
「莫迦な事を仰らないで下さい!これのどこが掠り傷だと言うのですか?」
つい先程まで意識を失っていたというのに、一体この男は何を言っているのだろう。
アルフォンシーナは彼の手を振り解いて、早く助けを呼びに行こうとするが、思いの外ベルナルドの力が強く、どんなにアルフォンシーナが抵抗しても、びくともしなかった。
「戯れはお止め下さい。そんな事をして命を落としたらどうするのです?」
アルフォンシーナは必死に訴えるが、ベルナルドは動じなかった。
「………あなたにとっては、私が死んだ方が都合が良いのではないか?」
次いで彼の口から出てきた衝撃的な言葉に、アルフォンシーナは目を見開いた。
「私が死ねば、あなたは自由になれる。私のような碌でもない、優しくもなければ、気遣いもない、名ばかりの夫に縛り付けられる理由も無くなる。………そうだろう?」
ベルナルドは自嘲の笑みを浮かべながら、そう囁いた。
148
お気に入りに追加
1,072
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる