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101.瀕死のベルナルド

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「旦那様」

今度はやや強めの声でベルナルドに呼び掛けると、ベルナルドが微かに身じろぎをした。

「旦那様!」
「ア………ルフォンシーナ………?」

アルフォンシーナの手が触れた肩が、大きく揺れたかと思うと、ベルナルドがごろりと仰向けに体勢を変えた。
ようやく暗闇に目が慣れてきたのか、ベルナルドが押さえている左脇腹から、赤黒い血が流れ出ているのがはっきりと見えた。

ベルナルドに初めて名前を呼ばれたという事実に気が付かないくらいに、アルフォンシーナはその光景に衝撃を受けた。

「こんな傷を負っているのに、どうして何も仰らなかったのです?!」

アルフォンシーナが声を荒げると、ベルナルドは喉の奥で嗤った。

「………あなたが、私の事でそんなふうに怒るとは思わなかった」

深い吐息と共に、穏やかな声が響く。

「冗談を言っている場合ではないでしょう!お待ちください、今人を………」

とにかく一刻も早く手当をしなければ、間違いなく彼の命が危ないと判断したアルフォンシーナは、慌てて立ち上がろうとする。
だが、不意にベルナルドの手が伸びてきて、アルフォンシーナのか細い腕を掴んだ。

「…………っ!」

驚いたアルフォンシーナがベルナルドを見ると、彼は再び嗤った。

「………こんな掠り傷、大したことはない」
「莫迦な事を仰らないで下さい!これのどこが掠り傷だと言うのですか?」

つい先程まで意識を失っていたというのに、一体この男は何を言っているのだろう。
アルフォンシーナは彼の手を振り解いて、早く助けを呼びに行こうとするが、思いの外ベルナルドの力が強く、どんなにアルフォンシーナが抵抗しても、びくともしなかった。

「戯れはお止め下さい。そんな事をして命を落としたらどうするのです?」

アルフォンシーナは必死に訴えるが、ベルナルドは動じなかった。

「………あなたにとっては、私が死んだ方が都合が良いのではないか?」

次いで彼の口から出てきた衝撃的な言葉に、アルフォンシーナは目を見開いた。

「私が死ねば、あなたは自由になれる。私のような碌でもない、優しくもなければ、気遣いもない、名ばかりの夫に縛り付けられる理由も無くなる。………そうだろう?」

ベルナルドは自嘲の笑みを浮かべながら、そう囁いた。
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