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88.帰路

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そのままフェルディナンドに見送られながら、アルフォンシーナはベルナルドに伴われて帰宅の途についた。
帰りの馬車の中、途切れる事なく感じるベルナルドの視線に居た堪れない気持ちになったアルフォンシーナは、俯いてじっとしていた。

「………」

彼の表情を窺うことは出来ないが、おそらく怒っているのだろう。
だがそれは当然だと、アルフォンシーナは思っていた。
いくら親しい仲とはいえ、シルヴェストリ侯爵家の失態を国王の前で曝すことになったのだ。
しかも、彼を怒らせる理由はそれだけではない。
きっと、アルフォンシーナが城にまで押しかけて来たことに対しても腹を立てているだろう。
だからこそ、これ以上ベルナルドを怒らせない為には、ベルナルドの方から何かを尋ねて来ない限りは、余計な事を喋らず、黙っていた方が賢明だろうと判断したのだった。

耳に痛いほどの沈黙が破られたのは、あと少しで屋敷に到着するという時だった。

「………顔色が悪い。気分が良くないのか?」

不意に、ベルナルドの低い声が狭い馬車の中に響いた。
それを聞いたアルフォンシーナは、ベルナルドからの言葉が、自分を非難するものでなかったというだけで、驚いてしまう。
その程度は当たり前の夫婦の会話の筈なのに、そんな当たり前のことですら、自分たちは出来ていなかったのだと、今更ながら実感した。

「………ビアンカのことが、心配なのです」

俯いたまま目を伏せ、アルフォンシーナが静かに答えると、ベルナルドは頷いたようだった。

「大丈夫だ。ビアンカの事ならば心配ない」

ベルナルドははっきりと言い切った。
ただの気休めにしては、妙に自信に満ち溢れた彼の言葉を聞くと、本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だった。
「」
(………旦那様が、わたくしを励まして下さる理由などないのに………)

それでも、今日のベルナルドはいつもと違い、本当に別人のように優しいとアルフォンシーナは感じざるを得なかった。
あれだけベルナルドをおこらせるような愚かな行動をとってしまったアルフォンシーナを、ベルナルドは話をきちんと最後まで聞いたさ一度たりも怒らなかったからだ。
しかしまたいつ掌を返されるのかもしれないと考えるとと怖くて、それ以上言葉を繫ぐ事は出来なかった。
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