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85.報告

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ヴァレンツィ公爵夫人にすら詳細
を話すのを躊躇った内容を国王に聞かれるという事態に、アルフォンシーナは激しく動揺していた。

フェルディナンドに先導され、ベルナルドについて部屋の中に足を踏み入れるが、普段であれば真っ直ぐ前を見据えて歩くところを、ずっと足元を見つめながら歩いていった。

「………それで、一体何があった?」

部屋の中央部に向かい合って置かれた長椅子に座るように指示されたアルフォンシーナが恐る恐る座ると、目の前にはフェルディナンドが、そしてアルフォンシーナの隣にはベルナルドが当然のように腰を下ろした。
彼の体重で椅子が沈む感覚に、アルフォンシーナの緊張は更に高まった。

アルフォンシーナはちらりとフェルディナンドの方を見るが、彼は遠慮するつもりは全くないらしく、にっこりと微笑みながらこちらを見ていた。

しかし、こうしている間もビアンカは助けを待っているに違いない。
アルフォンシーナは膝の上で重ね合わせた手をぎゅっと握りしめると、重い口を開いた。

「………実は今日もまた、ブルーノ………いえ、タルディッリ男爵子息から贈り物が届いたのです。しかし受け取る訳には参りませんので、断りの手紙と共に男爵家に届けるように侍女のビアンカに頼んだのですが………」

アルフォンシーナの口からブルーノの名が出た途端にベルナルドの表情が険しいものに変わったが、流石にフェルディナンドの前ではアルフォンシーナを責めたり、話を途中で遮ったりということはしなかった。
ただ憮然とした表情のまま、静かに話に聞き入っていた。

「なるほどね。そのままその侍女が行方不明になった、という訳か」

納得したようにフェルディナンドが頷くと、ベルナルドは顎の辺りに手を遣りながら、眉間に皺を寄せた。

「………男爵家には確認はとったのか?」
「はい。男爵家の周辺もくまなく探したと報告を受けておりますわ」

ベルナルドの質問に対して、はっきりと答えることは出来たが、次は一体何を言われるのかと気が気ではなかった。

それでも、ベルナルドが自分の話を最後まできっちりと聞いてくれたということだけで、アルフォンシーナは嬉しくなった。

(………旦那様と、ほんの少しだけ、歩み寄ることが出来たのかしら………)

不謹慎にもそんな事を考えながら、アルフォンシーナは更に詳細を伝えた。
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