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76.密やかな訪れ
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アルフォンシーナがぼんやりと窓の外に見える月を眺めていると、微かに扉を叩く音が聞こえた気がした。
続いて扉がそっと開けられ、誰かがへやに
先程ソフィア達が退出してから、随分と時間が経っているが、もしかしたらアルフォンシーナの体調を心配して様子を見にきたのだろうかとも思ったが、侍女が主人の許可なく部屋に入ってくるのは緊急を要する時のみだ。
(………だとすると、一体誰が………?)
アルフォンシーナは息を潜め、瞼を閉じて寝入った振りをして様子を伺った。
暴漢や賊の可能性も考えたが、そうした輩が堂々と部屋の扉から侵入してくるというのも考えられない。
考えながらも気配を窺おうと、アルフォンシーナは神経を研ぎ澄ました。
そうしている間に、侵入者はアルフォンシーナのいる窓辺へとやってきて、足を止めたようだった。
目を瞑っていても、じっくりと観察されているのを感じる。
その感覚に既視感を覚えて、アルフォンシーナはまた戸惑った。
(………まさか………そんなはず………)
彼が自分の元を訪れることなどあり得ないと、必死になって頭の中で否定する。
だが、すぐにその可能性が正しかったと知ることになった。
「………また、こんな所で眠ってしまったのか」
こんなにも穏やかなものは聞いたことがなかったが、それでも低くて男らしい彼の声を聞き間違えるはずはなかった。
(………どうして、旦那様が………?)
普通の夫婦であれば、夫が夜に妻の元を訪れるのは至って普通の行動だが、自分達は夫婦とは名ばかりの、全くの他人だ。
そんな彼が自分を訪ねてくる理由など思い浮かばなかった。
「こんな所で眠ってしまうほどに、疲れたのだな。………風邪など引いていなければいいが………」
そんな呟きと共に、不意に体が浮き上がる感覚があり、アルフォンシーナは思わず悲鳴を上げそうになってしまった。
それでも何とかそれを堪え、気が付かれないように静かに呼吸を整える。
ベルナルドが自分の体をそっと抱き上げたのだと気がつくのに時間は掛からなかったが、驚きと羞恥のせいで、鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。
ひょっとすると、アルフォンシーナが寝入ったふりをしていることに気がついているのではないだろうかと不安になりながら、アルフォンシーナを起こさないように、慎重に運んでいくベルナルドに身を委ねた。
暫くして着衣越しに伝わってきていたベルナルドの体温が少し離れた感覚があり、次いで背中に柔らかなシーツが触れる感覚があった。
ベルナルドによってアルフォンシーナの体は寝台へと横たえられると、履いたままになっていた靴も片足ずつ丁寧に脱がせてくれた。
ふと、寝台が沈み、ベルナルドが腰を下ろした気配がした次の瞬間、ベルナルドの大きな手が伸びてきたかと思うと、アルフォンシーナの顔にかかった髪を整え、それから慈しむかのように優しい手つきで、何度も何度もアルフォンシーナの頭を撫でてくれた。
「どうか、この一時だけでも安らいでくれればいいのだが………」
ベルナルドは再びそう呟くと、まるで壊れやすい宝物を扱うかのように慎重な手つきでアルフォンシーナの頬に触れた後に、ベルナルドは入室してきた時と同様にまた部屋から出ていった。
「…………」
アルフォンシーナは収まることのない鼓動と、彼の温もりの余韻を感じながら、彼が触れた頬をそっと撫でたのだった。
続いて扉がそっと開けられ、誰かがへやに
先程ソフィア達が退出してから、随分と時間が経っているが、もしかしたらアルフォンシーナの体調を心配して様子を見にきたのだろうかとも思ったが、侍女が主人の許可なく部屋に入ってくるのは緊急を要する時のみだ。
(………だとすると、一体誰が………?)
アルフォンシーナは息を潜め、瞼を閉じて寝入った振りをして様子を伺った。
暴漢や賊の可能性も考えたが、そうした輩が堂々と部屋の扉から侵入してくるというのも考えられない。
考えながらも気配を窺おうと、アルフォンシーナは神経を研ぎ澄ました。
そうしている間に、侵入者はアルフォンシーナのいる窓辺へとやってきて、足を止めたようだった。
目を瞑っていても、じっくりと観察されているのを感じる。
その感覚に既視感を覚えて、アルフォンシーナはまた戸惑った。
(………まさか………そんなはず………)
彼が自分の元を訪れることなどあり得ないと、必死になって頭の中で否定する。
だが、すぐにその可能性が正しかったと知ることになった。
「………また、こんな所で眠ってしまったのか」
こんなにも穏やかなものは聞いたことがなかったが、それでも低くて男らしい彼の声を聞き間違えるはずはなかった。
(………どうして、旦那様が………?)
普通の夫婦であれば、夫が夜に妻の元を訪れるのは至って普通の行動だが、自分達は夫婦とは名ばかりの、全くの他人だ。
そんな彼が自分を訪ねてくる理由など思い浮かばなかった。
「こんな所で眠ってしまうほどに、疲れたのだな。………風邪など引いていなければいいが………」
そんな呟きと共に、不意に体が浮き上がる感覚があり、アルフォンシーナは思わず悲鳴を上げそうになってしまった。
それでも何とかそれを堪え、気が付かれないように静かに呼吸を整える。
ベルナルドが自分の体をそっと抱き上げたのだと気がつくのに時間は掛からなかったが、驚きと羞恥のせいで、鼓動がどんどん早くなっていくのを感じた。
ひょっとすると、アルフォンシーナが寝入ったふりをしていることに気がついているのではないだろうかと不安になりながら、アルフォンシーナを起こさないように、慎重に運んでいくベルナルドに身を委ねた。
暫くして着衣越しに伝わってきていたベルナルドの体温が少し離れた感覚があり、次いで背中に柔らかなシーツが触れる感覚があった。
ベルナルドによってアルフォンシーナの体は寝台へと横たえられると、履いたままになっていた靴も片足ずつ丁寧に脱がせてくれた。
ふと、寝台が沈み、ベルナルドが腰を下ろした気配がした次の瞬間、ベルナルドの大きな手が伸びてきたかと思うと、アルフォンシーナの顔にかかった髪を整え、それから慈しむかのように優しい手つきで、何度も何度もアルフォンシーナの頭を撫でてくれた。
「どうか、この一時だけでも安らいでくれればいいのだが………」
ベルナルドは再びそう呟くと、まるで壊れやすい宝物を扱うかのように慎重な手つきでアルフォンシーナの頬に触れた後に、ベルナルドは入室してきた時と同様にまた部屋から出ていった。
「…………」
アルフォンシーナは収まることのない鼓動と、彼の温もりの余韻を感じながら、彼が触れた頬をそっと撫でたのだった。
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