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73.見えない真実

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立ちあがった拍子に、ベルナルドと目が合った。

「…………っ」

アルフォンシーナの想像と違い、ベルナルドの表情は酷く切なそうで、瑠璃色の瞳は迷いなくアルフォンシーナを見つめていた。
思わず息を呑み、動きを止めたアルフォンシーナに合わせるように、ベルナルドもまた立ち上がる。

「………あなたは何か勘違いしているようだが………」

ゆっくりとした足取りでベルナルドがアルフォンシーナの方へと近づいてきた。
距離を取るべきか、と迷っている間にも二人の距離はどんどん縮まり、ベルナルドはあっという間にアルフォンシーナの目前までやってくる。

「ベッリーニ侯爵令嬢との間には何もない」

いつになくはっきりとした声で、ベルナルドが告げた瞬間、アルフォンシーナは大きく目を見開いた。

そんなはずはない。
何もなかったら、レベッカからベルナルドに関する話を色々と聞かされたが、それは全て彼女の作り話だとでも言いたいのだろうか。
万が一、レベッカの話が嘘だったとしても、社交界で出回っている『遊び人侯爵』の噂についてはどう説明するつもりなのだろうか。

「何もないと仰られますが、それをわたくしにどう信じろというのです?」

アルフォンシーナは俯くと、小さな、けれどもはっきりした声で呟いた。

「……………っ!」

アルフォンシーナの返答に、今度はベルナルドの方が息を呑んだようだった。
彼自身、噂の方については否定しようがないのだろう。

「………本当に、彼女とは特別な仲でもないし、親しくも何ともない。証拠を出すことはできないが、信じてほしい」

一旦アルフォンシーナから顔を逸らし、困ったように顔を顰めながら拳を強く握りしめたベルナルドは、腹の底から絞り出すように呟く。

傷ついているのはベルナルドではないはずなのに、何故そんなにも苦しそうな表情をするのだろう。
まるで、アルフォンシーナに告げられない何かを隠すようにーーー。

「………その話を信じたところで、わたくしにとって何になるのでしょう………」

彼が嘘を言っているようには思えないという気持ちは強かった。
だが、彼を信じてまた裏切られるのが怖くて、アルフォンシーナは自分の本心に目を背け、ベルナルドを突き放すように静かにそう呟いた。
するとベルナルドは悲しそうに目を伏せた。

「………そうか。………だが、目に見えるもの、耳にしたことだけが真実ではないということを、覚えておいて欲しい」

うっかりすると聞き逃してしまいそうな声でそう告げると、ベルナルドはアルフォンシーナに背を向け、足早に部屋を出ていったのだった。

※※※お知らせ※※※

近況ボードにも書きましたが、何故か最新20話程が消えてしまいました(泣)
覚えている限りで復元しますが、元々のお話と若干違いが出るかもしれません………。
本当に申し訳ありません。
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