上 下
68 / 220

67.ベッリーニ侯爵

しおりを挟む
今日の主催者であるレベッカに対して丁寧に挨拶をしてから、アルフォンシーナは足早にその場を立ち去った。

(本当はこんなつもりではなかったのに…………)

ベッリーニ侯爵邸の廊下を歩きながら、アルフォンシーナは小さく溜息をついた。

自分はベルナルドともうすぐ離縁することになるという事を、レベッカに伝えるためにお茶会に来たはずなのに、全く真逆の意思表示をしてしまった気がする。
その上、レベッカと良好な関係を築こうと考えていたはずなのに、口論のような形になってしまった。
今日の自分自身の振る舞いは、反省する事ばかりだ。

「…………どうして、あんなに腹が立ったのかしら…………」

レベッカの言動が、いちいち癇に障った。
正直、彼女がベルナルドの名を口にするだけで嫌悪感が込み上げてきた。
ベルナルドが自分の夫であるという事実こそあれ、そんな風に感じる理由などない。
自分の中で説明のつかない現象が幾つも起っていて、アルフォンシーナは混乱していた。

「これはこれは、珍しいお客様だ」

ぼんやり考え事をしていたアルフォンシーナに、誰かが声をかけてきた。
はっと我に返り、視線を上げると、目の前には初老の男性が立っていた。

「御機嫌よう、ベッリーニ侯爵様」

慌てる素振りなど微塵も見せることなく、アルフォンシーナは流れるような動作で淑女の礼をしてみせた。

彼の名はマヌエル・ベッリーニ。
ベッリーニ侯爵家の現当主であり、宰相を務める人物。ーーーそして、他でもないレベッカの父親。
一見人当たりも良く、穏やかそうだが、強かな一面もあると聞く。
おそらく国内に於いて、今最も力を持っている貴族だと、誰もが口を揃えて言うだろう。

シルヴェストリ侯爵家も先代の頃までは、ベッリーニ侯爵家と同等、いやそれ以上の力を持っていたが、現当主であるベルナルドが享楽に耽り、まともに仕事をしていない為に没落しつつあり、同じ侯爵位の間でも大きな格差が生まれて来ているのが現状だった。
嘆かわしいことではあるが、それが今のシルヴェストリ侯爵家の現状であり、ベルナルドの結婚が王命によって行われた理由でもある。

「流石は『国一番の淑女』と呼ばれるだけのレディですな。うちの娘にも見習わせたいものだ」

感嘆の溜息を漏らすと、綺麗に整えられた金色の顎髭を撫でながら柔らかい笑顔を浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...