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50.拒絶

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「………あなたが、謝罪することなど何も無い」

 呟くように落とされたベルナルドの声は、明らかに動揺していた。

 どんな扱いをしても従順に従うと思っていたアルフォンシーナが、こんなにも強気に出てくるとは夢にも思わなかったのだろう。

「でしたらわたくしは何をすれば良いのです?実家にでも戻りましょうか?………それとも、今この場で自ら命を絶てば良いのですか?…………ああ、そうすれば憎いわたくしの顔などもう二度と見なくても………」
「やめろ!!」

 脅しをかけるように矢継ぎ早に提案をするアルフォンシーナを、ベルナルドが遮った。
 突然の大声に、アルフォンシーナは驚いて喋るのを止めた。

「………やめてくれ……。あなたの口から、そんな言葉は聞きたくない………」

 ベルナルドは縋るように、アルフォンシーナを見つめた。
 だが、アルフォンシーナは冷静だった。

「わたくしの言葉は、聞きたくないと仰られるのですね?………わたくしは今までずっと、聞きたくないような酷い言葉を投げつけられてもじっと堪えて参りました。………それなのに、旦那様はわたくしの言葉を聞きたくないと言うのはあまりにも理不尽なのではありませんか?」

 以前ベルナルドに謝罪を求めた時とは比べ物にならないほどの反抗に、ベルナルドは閉口する。
 おそらくはアルフォンシーナの指摘があまりにも正論であるため、答える事が出来なかったのだろう。

「………何もお答え頂けないのであれば、わたくしはもう下がらせて頂きます。今後のことは決まり次第、ソフィアかビアンカにお伝え下さいませ」

 アルフォンシーナはすっと背筋を伸ばすと、優雅な仕草でくるりと体の向きを変え、扉の方へと歩き出す。

「待ってくれ………っ」

 途端に、ベルナルドの手が伸びてきて、再びアルフォンシーナに触れる。
 だが、アルフォンシーナはその手から逃れるように身を捩った。
 それでもベルナルドは諦める事なく、アルフォンシーナの腕を掴んで、自分の方へと引き寄せた。

「………離して、下さい」

 強引にアルフォンシーナを引き留めようとするベルナルドを、はっきりと突き放す。
 しかしアルフォンシーナが静かに、だがはっきりとした言葉で紡ぎ出したのは、ベルナルドへの拒絶だった。
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