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28.申し出

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「………さっきの騒ぎの時………助けられなくてごめん。君があんな目に遭っていたのに………」

ブルーノは肩を竦めて心底申し訳なさそうに謝罪を始めたが、アルフォンシーナはもうあの話題には触れたくなかった。

「気に掛けてくれてありがとう、ブルーノ」
「いや………結局僕は何も出来なかったし………」

瞳と同じ色の、強いくせのある巻き毛に覆われた頭をかりかりと搔くと、困ったように笑顔を浮かべるブルーノに、アルフォンシーナはゆっくりと頭を振った。

「いいえ。………その気持ちだけで充分よ」

そっと目を伏せ、ブルーノに笑い掛けると、彼もまた、アルフォンシーナに笑いかけた。

「………それで………もしよければ、僕と一曲、踊ってくれないかな………?」

ブルーノはおずおずと、アルフォンシーナに向けて手を差し出してきた。
しかしアルフォンシーナは困ったようにブルーノの方を見た。

「………ブルーノ。申し訳ないけれど、あなたの申し出は受けられないわ」
「えっ………?」

ブルーノは驚いて顔を上げた。

「ダンスを申し込む相手が既婚者の場合は、相手の伴侶に許可を得るのがマナーなのよ。だから、旦那様に許可を得ないと…………」
「あ…………」

しまった、とでも言うように、ブルーノは顔を顰めた。
若いブルーノが既婚女性と踊る機会は今までなかったせいで、あまり気にしていなかったのかもしれない。

「でも………君の夫は、君があんな目に遭っていたのに、助けにも来なかったじゃないか。きっと今だってどこかの休憩室で他の女性と…………」
「やめて!」

思わず叫んでしまったことに、アルフォンシーナ自身が一番驚いていた。
はっとして、慌てて口元を覆う。

極力考えないようにしていた現実を、ブルーノに指摘されたことで、昼間に見た馬車の女性とベルナルドのやりとりが頭の中で蘇り、思わず声が出てしまったらしい。
淑女としてあるまじき振る舞いをしてしまった事に対しての恥じらいが急に込み上げてきて、アルフォンシーナは青褪めた。

「ご………ごめんなさい………」
「………いや、僕の方も少し、言い過ぎたみたいだ。…………ごめん。君を困らせるつもりはなかったんだ。………今日のところは、これで失礼するよ」

ブルーノも失言をしてしまったという自覚があるらしく、悲しげに俯くと、肩を落としてアルフォンシーナに背を向けた。

「………あらあら。面白いものを見させてもらったわ………」

そんな二人のやりとりを、少し離れて見ていた人物がひっそりとそう呟いたことなど知らないアルフォンシーナは、人混みに消えていくブルーノの後ろ姿を見つめながら立ち尽くしていた。
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