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7.夫のいない初夜

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 ソフィアとビアンカに案内された部屋は、侯爵夫人の部屋としては申し分のない、広々としながらもこざっぱりとした美しい部屋だった。

 家具は必要最低限ではあるものの、どれも皆一目で最高級品だと分かるようなアンティークの物が置かれており、落ち着いた色味のカーテンや絨毯はどれもアルフォンシーナの好みに合っていた。

「とても素敵なお部屋だわ」
「お気に召されたようで、幸いです」

 窓際のテーブルに置かれた燭台に、慣れた手付きで灯りを点しながら、ソフィアが嬉しそうに微笑んだ。

「本日はその………お疲れでございましょう?既に湯浴みの準備は出来ておりますが、いかがなさいますか?」

 アルフォンシーナに向かって、今度はビアンカがぎこちない笑みを浮かべながら、そんな提案をしてきた。
 少し言い淀んだのは、本来であれば祝いの言葉と共に初夜の準備を手伝うのが彼女の仕事だというのに、新郎が不在という状況に置かれたアルフォンシーナを気遣ってくれたからなのだろう。
 彼女にも気まずい思いをさせてしまったことを申し訳なく思いながら、アルフォンシーナは小さく頷いた。

「そうね。お願いできるかしら?」
「かしこまりました」

 丁重にお辞儀をすると、ビアンカは浴室の準備に取り掛かる。
 その間に、ソフィアがアルフォンシーナの着替えを手伝ってくれた。
 ソフィアの手助けにより、窮屈で息の詰まりそうなドレスや下着から解放されていく。
 しかしそれとは違い、アルフォンシーナの心は少しも軽くならなかった。

は、一体どんな気持ちで初夜を迎えるのかしら………)

 本来であれば共に一夜を過ごすはずの『夫』は、今頃娼館で別の女性を抱いている。
 こんなにも惨めな初夜を迎える花嫁など、広い王国中を探してもきっと自分以外にはいないだろう。
 憂い気に目を伏せ、そんな事を考えていると、ソフィアが優しく声を掛けてくれた。

「ビアンカが気持ちを落ち着かせてくれる香油を準備してくれている筈です。それに、温かい湯に浸かれば、昂ったお心も少しは解れると思いますよ」

 おそらくソフィアには、アルフォンシーナが今何を考えていたのかが伝わってしまったのだろう。
 アルフォンシーナは少し恥ずかしさを覚えながら、ぎこちなく微笑んだのだった。

*****

 ソフィアの言った通り、気持ちを落ち着かせる香りの香油をふんだんに使った湯船に浸かると、全身の緊張が一気に解れた気がした。

「今日は本当にありがとう。あなた達も疲れたでしょうから、もう下がって良いわ」

 髪と肌の手入れが終わると、アルフォンシーナは椅子から立ち上がり、ソフィアとビアンカに向かって微笑んだ。

「何がありましたら、遠慮なくお呼び下さい。私共は隣の部屋に控えております」

 アルフォンシーナの言葉に、二人は頭を下げると、ソフィアの方が気遣わしげな表情で、アルフォンシーナにそう告げた。
 ゆったりと構えていたつもりなのに、落ち着きがない事を悟られてしまったらしい。

「………ありがとう」

 アルフォンシーナは何とも言えない表情を浮かべながら、それだけ呟いた。
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