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2.結婚式

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 最悪の顔合わせから僅か一ヶ月後。
 アルフォンシーナは美しい純白のウエディングドレスと花で彩られた長いヴェールを身に纏い、王都にある大聖堂の控室で出番を待っていた。

 王から、出来るだけ早急にという命令が下されたため、アルフォンシーナのドレスが仕上がって来たのはつい三日前の事だった。
 それほどまでに王は、ベルナルドに腰を落ち着けて欲しいと願っているのだろうが、いくら歴史ある名家とはいえ、一貴族に過ぎないシルヴェストリ侯爵の結婚にここまで王が口を挟んでくる程に、彼の放蕩ぶりには王も頭を悩ませているのだろう。

 例の顔合わせの後、『式の準備は全てシルヴェストリ侯爵家にて行うので、アルフォンシーナにはいつでも屋敷を移れるように準備をしておいてくれれば良い』との指示がベルナルドからあったとパルヴィス伯爵から聞かされた。
 通常であれば両家の話し合いの元、式の準備が進められる筈だが、今回は異例づくめの結婚だ。
 勿論結婚式に憧れが無いわけではなかったが、大人しく『夫』の言葉に従うのも大切なことだ。
 アルフォンシーナは侍女達と共に、使い慣れた身の回りのものや、結婚生活で必要になるであろう品を準備したのだった。


 そして迎えた結婚式当日は、今にも雨が降り出しそうな、重い鉛色の雲が垂れ込めた天気だった。

「お嬢様のせっかくの結婚式だというのに…………」

アルフォンシーナに付き添っていたパルヴィス伯爵家の侍女が、深い溜息をついた。

「あら、わたくしは全然気にしていないわ」

 不満気にじっと空を睨みつける侍女に向かって、アルフォンシーナは柔らかな微笑みを浮かべてみせた。

「確かにお天気も大切かもしれないけれど………結婚式において最も重要なのは、シルヴェストリ侯爵様を敬愛し、歩み寄る気持ちでしょう?」

 そう言って、まるで最上級のサファイアを埋め込んだかのような神秘的な輝きを宿した瞳を僅かに伏せるアルフォンシーナは、純白のドレスを着ているせいもあり、まるで光を纏った女神のようにすら見えた。

「わたくしは、大丈夫よ」

 それは、まるでアルフォンシーナが自分自身に言い聞かせているかのような言葉だった。
 それが酷く淋しげに聞こえて、侍女はくしゃりと悲しげに顔を歪める。

 ちょうどその時、式の主役であるアルフォンシーナを呼びに来た年若い司祭が、扉を叩いた。
 アルフォンシーナは侍女に向かって柔らかな笑顔を浮かべると立ち上がる。

 (大丈夫。わたくしは、大丈夫よ)

もう一度、心の中でそう繰り返すと、アルフォンシーナは司教と侍女に付き添われ、式の行われる礼拝堂へと向かった。
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