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168.証拠(3)

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「一体何を始めるかと思えば………」

セヴランは呆れたように溜息をついた。
証拠だという所々が焼け焦げた軍旗と、もう一枚の真新しい軍旗は一見、大した違いはないように見える。
だからこそセヴランも、ルドヴィクを莫迦にしたような態度を取っていられるのだろう。
周囲を取り巻く貴族たちにとってもそれは同じだったようで、ざわざわとざわめきはじめた。

「素人目には、殆ど違いがないように見えるだろう。………だが」

セヴランを始めとした貴族たちの反応
は当然だとでも言うかのように、ルドヴィクは頷くと、突然壁の方に向かって歩き出す。
あまりにも堂々としたルドヴィクの振る舞いに、ブロンザルドの衛兵たちはただ彼を視線で追うだけで、動くことすらも出来ないようだった。
だがルドヴィク本人はそれを気にするふうもなく壁まで辿り着くと、そこに掛けられた燭台に手を伸ばした。
そして一本の蝋燭を持って元の場所まで戻ってくる。

「………こうすれば、誰の目にも真実が明らかになる」

それはまるで宣言するかのように、自信に満ちた言葉だった。
ルドヴィクは体を折ると、真新しい軍旗に蝋燭の火を近付けた。

「えっ…………」

不安そうにルドヴィクを見守っていたアリーチェの口から、小さく声が零れた。
中心部に後ろ足で立ち上がった勇ましい金獅子の姿が描かれた黒い旗は、あっという間に炎に包まれーーーなかったからだ。
まるで目に見えない何かで包まれているというのに、いくら炎を近づけてもそちらの軍旗は燃えるどころか、

「分かるだろう?我が国の騎士団が掲げる軍旗は、神の加護により燃えることはない。………故にそのような焦げ跡がつくことはありえない」

ルドヴィクはその場にいる面々を見回しながら告げると、蝋燭を吹き消した。

「燃えない………軍旗…………?」

驚いたアリーチェが小さく呟くと、ルドヴィクはアリーチェの隣に戻り、真っ直ぐに彼女に隻眼を向ける。

「そもそも軍旗とは、騎士や兵の士気を高める団結の証。元々が勇猛な騎士の造った国であるイザイアは、軍旗を神聖なものとして考えるため、新たに軍旗を作る際は必ずイザイア大聖堂において『神のご加護』を授けてもらうのが決まりだ。………そして、加護を受けた軍旗は絶対に燃えることはない」

ルドヴィクは淡々と説明をしてくれるが、それはアリーチェにとっては俄には信じがたい内容だった。
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