上 下
132 / 351

131.パトリスとの対面

しおりを挟む
「一体、何を………?」

アリーチェが震える声で微かにそう呟いた、まさにその時だった。

ガシャンと今までにないくらいに大きな金属音が、塔全体に響き渡った。
そのあまりの音の大きさに、アリーチェは驚きと怯えの為に、思わず肩を竦めた。

それと同時に、同じく音に驚いたセヴランの手の力が緩んだ拍子にアリーチェの手が抜け、アリーチェはセヴランから解放された。

「……………っ!」

アリーチェは慌ててセヴランから逃げ出し、彼と距離を取るように反対側の壁に背を付けた。
己を落ち着かせようと胸の前で組んだ手が、微かに震えている。

「出来損ないの分際で、私の邪魔をするとはいい度胸だな、パトリス!」

セヴランが声を荒げる様子を目の当たりにするのも、セヴランがパトリスの名を口にするのを聞くのも初めてのことだった。

穏やかで、少し気の弱そうなブロンザルド国王の仮面は完全に剥がれ、狂気に歪んだ彼の本性が暴き出されるようだった。
そんな父の声に対して抗議するようにパトリスはもう一度大きな音を出した。

それは、鉄格子に手枷か足枷を打ち付けているような、金属同士がぶつかり合う、力強く音だった。
パトリスが何を考えてこのような行動を取っているかは全く理解できなかったが、彼には彼の考えがあるのだろう。
だが、そんなことよりもアリーチェは、パトリスが怪我をしていないかという事の方が心配だった。

「どこまでも生意気な出来損ないが………!!」

何故か怒りを顕にしたセヴランが、衛兵に指示を出すと、命じられた衛兵が素早く動いて隣の部屋へと移動していく。
微かな鎖の音と、衛兵たちの押し殺した声が聞こえてきた。
そして、程なくして衛兵に伴われた一人の年若い男性が、アリーチェの視界に入ってきた。

両手首には手枷、そして両足には足枷を嵌められていて、亜麻色であろう髪は薄汚れ、麻紐の束のように見えた。
これといった特徴のない顔の父親とは異なり、父親譲りの灰色の瞳が印象的な、整った顔立ちの青年だった。

「パトリス、様……………」

アリーチェは無意識のうちに彼の名を呟いていた。
彼こそが、この数日間、二人のほかは誰もいない棟の中で、数えきれない程に言葉を交わした相手ーーーパトリス・ブロンザルドだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】幼馴染で将来を誓い合った勇者は私を捨てて王女と結婚するようです。それなら私はその王女様の兄の王太子様と結婚したいと思います。

ましゅぺちーの
恋愛
聖女であるソフィアには将来を誓い合った幼馴染であり勇者のアレックスがいた。しかしある日ソフィアはそんな彼が王女と不貞をしている瞬間を目撃してしまう。 悲しみに暮れた彼女の前に現れたのはその王女の兄である王太子だった。それから王太子と関わっていくうちにソフィアは次第に彼に惹かれていって― ※全67話、完結まで執筆済みです。 小説家になろう様にも投稿しています。

5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。 そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。 しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。 彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。 悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。

婚約破棄されまして(笑)

竹本 芳生
恋愛
1・2・3巻店頭に無くても書店取り寄せ可能です! (∩´∀`∩) コミカライズ1巻も買って下さると嬉しいです! (∩´∀`∩) イラストレーターさん、漫画家さん、担当さん、ありがとうございます! ご令嬢が婚約破棄される話。 そして破棄されてからの話。 ふんわり設定で見切り発車!書き始めて数行でキャラが勝手に動き出して止まらない。作者と言う名の字書きが書く、どこに向かってるんだ?とキャラに問えば愛の物語と言われ恋愛カテゴリーに居続ける。そんなお話。 飯テロとカワイコちゃん達だらけでたまに恋愛モードが降ってくる。 そんなワチャワチャしたお話し。な筈!

悪役令嬢の悪行とやらって正直なにも悪くなくない?ってお話

下菊みこと
恋愛
多分微ざまぁ? 小説家になろう様でも投稿しています。

僕の兄は◯◯です。

山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。 兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。 「僕の弟を知らないか?」 「はい?」 これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。 文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。 ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。 ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです! ーーーーーーーー✂︎ この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。 今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。

いつかの僕らのために

水城雪見
BL
令和2年2月27日。ジャンルをファンタジーからBLに変更しました。 吉崎麗、17歳。性別男。人懐っこく同性の友人多し。自他ともに認める超ファザコン。 ハイスペックで存在自体が嫌味と言われることもある俺ですが、本日、実の母親に刺殺されました。 女神様に誘われて、大好きな父さんと来世でも親子になるために、異世界に旅立ちます。 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、常に友人に囲まれ、周囲に愛され、すべてにおいて恵まれているように見えた麗が、唯一持ち合わせていなかったのは母親の愛情。 生前から麗に目をつけていた異世界の女神は、麗に異世界での生き直しを提案する。 これは後に、『大物食い』や『傾国』などの二つ名で呼ばれることになる冒険者レイの話。 いつか生まれ変わる日のために、仲間を増やして異世界改革をしていきます。 ※注意※ ハーレム、逆ハーレムが当たり前という世界なので、主人公にはたくさんのパートナーができる予定ですが、恋愛要素は薄めです。 嫉妬深い母親に殺されたトラウマがあるので、あまり恋愛に積極的ではありません。どちらかというと、恋愛よりは友愛や仲間愛といった感じでくっつきそうです。 主人公はもともと同性愛者ではないので、普通に可愛い女の子も好きですが、恋愛には発展しません。

婚約者から婚約破棄のお話がありました。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「……私との婚約を破棄されたいと? 急なお話ですわね」女主人公視点の語り口で話は進みます。*世界観や設定はふわっとしてます。*何番煎じ、よくあるざまぁ話で、書きたいとこだけ書きました。*カクヨム様にも投稿しています。*前編と後編で完結。

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです

処理中です...