隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

107.明かされる真実（4）

「そのとおりです、ティルゲル殿」

セヴランが、ティルゲルの言葉に同意した。

「その国に暮らす民が、幸せであるように務めることが国王の責務だとカヴァニス王は言っていましたね。………本当に、美しくてご立派な理想論を本気で信じている姿は、見ていて吐き気がしましたよ」

そう吐き捨てるセヴランの灰色の瞳に、どろりと濁った憎しみの色が浮かび上がる。

「そんな理想論に躍らされ、カヴァニス王は判断を見誤ったのです。魔石は本来人が手にすべき力ではない。カヴァニスとしてはそのまま眠らせておくだなどと………。あれだけの鉱脈があれば、莫大な富を築き上げられる。それに、それだけではありません。あれだけの魔石があれば、この大陸を………いや、この世界を掌握することすらも可能になるはずなのです。ですから、我が国の技術を提供する見返りに、その利益を共有することを提案し、友好の証として、私の息子とあなたの婚姻を提案したのです。カヴァニス王が手中の珠として大切にしているあなたを我が国の王太子妃として迎えれば、何の問題もないはずですから。………そう、思いませんか？」

一言一言に、セヴランの憎しみと侮蔑の感情が込められているようだった。
国王ともなれば、自国を何よりも大切に思うのは当然だし、自国が侮辱された事に怒りを感じるのもまた当然の事だ。
しかし、セヴランのそれは強すぎる愛国心などではなく、何か別のもののようにアリーチェには思えた。

「…………」

彼から以前聞かされた話だと、ブロンザルド王太子とアリーチェの婚姻を打診したが、その返事を聞くことは無かったということだった。
だが、セヴランの口ぶりから、真実はそうではないような気がしていた。
アリーチェは敢えて押し黙ったまま、じっとセヴランを見つめた。

「それが、カヴァニス王はそれを断ったのです。あなたには、出来ることならば心から望む相手と幸せになって欲しいなど、本当に救いようがないとしか、言いようがありませんでした。………私が、どれだけ落胆したか、分かりますか？」

目の前にいるアリーチェに問いかけているのに、セヴランにはまるでアリーチェが見えていないかのようだった。
確かに視線は合うのに、焦点が合っていないような、奇妙な感覚に、アリーチェはゆっくりと瞳を閉じた。