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83.セヴランの懺悔(2)

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「………それは、カヴァニス王女あなたと、ブロンザルド王太子私の息子の婚約の打診の書簡でした。………カヴァニスとブロンザルドは、地理的要因や文化的要因からも、密接に関係しています。ですから、それぞれの王家が血縁関係で結ばれれば、お互いにとって良いのではと考えたのです。………ですが、その情報が何処からか漏れ、結果的にイザイアを刺激することになってしまったのです」

セヴランはその顔に苦々しげな表情を浮かべる。
一方のアリーチェは驚きに目を瞠った。

王太子であった兄ならばともかく、王女である自分は自国内の全ての情報に精通しているわけではない。
特に政治的な事情は知らないことのほうが多く、イザイアとの間で何かがあったとしても、余程のことがなければアリーチェの耳には入ってこない。
だが、そんな打診があったなど、全く知らずにいたのだ。

「で………ですが、不可侵協定がある中ですのに、何故………」

アリーチェは愕然としながらも、何とか声を絞り出す。
そんなアリーチェに、セヴランは力なく微笑みかけた。

「イザイア王の、自分勝手な欲望ですよ。………奴は、どうやらあなたに恋心を抱いていたらしい。………想いを寄せるあなたを、息子に取られるのが気に食わなかったのでしょう。………ですが、ブロンザルド我が国に戦を仕掛ける程の力を持っているわけではない。………それであればと奴が目をつけたのが、カヴァニスだったという訳です。…………きっかけを作ったのも、カヴァニス滅亡を止められなかったのも、私なのです。謝罪して済むことではありませんが、私がもっと慎重に事を進めていればこのような事にはならなかったでしょう。………本当に、申し訳なかった………」

セヴランの、心底申し訳なさそうな表情に、アリーチェはゆっくりと頷いた。

「そんな…………。陛下も、ブロンザルドも悪いことをしている訳では…………」

そう答えながらも、アリーチェの心の中は混乱に陥っていた。

ルドヴィクが、アリーチェに想いを寄せていたなどとは俄に信じがたい。
そもそも、ルドヴィクと顔を合わせたのはあの燃え盛る炎の中が初めてだったし、その後もルドヴィクはアリーチェを心配こそしていたものの、好いている素振りなど見せなかった。
唯一思い当たることと言えば、自分を憎めと言ってきたあの日の夜、彼に抱き締められた事くらいだ。
だが、必死に何かを隠そうとしていたルドヴィクの言動の根底に、セヴランの語った事実があるのだとすれば、全て辻褄が合う。

どうしていいのか分からず、アリーチェは静かに目を伏せた。
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