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68.転機
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揺らぐ心を抱えたまま、アリーチェは苦悩していた。
何一つ信じられない中で、自分は一体どうすればいいのか。
明確な目的を持って行動していたはずなのに、新たな事実を知れば知るほど、迷いが生じる。
もはや自分が生きている意味すらも、分からなくなっていた。
手にした書物に、視線だけを落としてパラパラと頁を捲るが、内容は全く頭に入らなかった。
溜息を一つ、静かに零すと、アリーチェは窓の外を見た。
目の覚めるような蒼穹に、真っ白な鳥が一羽、羽ばたいていくのが目に入った。
何の憂いもなく、そして迷いなく空を舞う姿は美しかった。
「わたくしも鳥のように、自由に空が飛べたらいいのに………」
誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、アリーチェは本を閉じ、じっとその鳥を見つめる。
何度も羽ばたきながら、自分自身の軌道を切り開いいける鳥が、羨ましかった。
こうしてただ鳥籠の中に閉じ込められ、何もできずに一生を終えるであろう自分には望めないことだから。
「………こうしていても気が滅入ってしまうから、少しだけ部屋の外に出たいわ」
アリーチェがそう声を掛けて立ち上がると控えていた侍女が、すぐに支度に取り掛かる。
その中に、ジネーヴラの姿が見えないことに気が付いた。
「あら?ジネーヴラは?」
「本日は非番でございます」
「そう………」
彼女の顔が見えないことに、寂しさを覚えたことに、アリーチェは気が付いた。
ジネーヴラはアリーチェが来た当初から、一日も欠かさずアリーチェの傍にいてくれた。
いつしかその環境が、アリーチェの中で当たり前になっていたのだろう。
「そうよね。ジネーヴラだって、休みを取ることもあるわよね……」
自分に言い聞かせるようにそう呟くアリーチェを手伝いながら、侍女が頷いた。
「じゃあ、今日はあなたがわたくしについてきてくれるのね?」
「………ずっと、この機会を待っていました」
微かな声で囁かれた、不穏な侍女の言葉に、アリーチェは眉を顰める。
「どういう、こと?」
どきりと、心臓が跳ねる。
「騎士のアマデオは捕まってしまったので………どうにか姫様を閣下のもとへお連れする方法を探っていたのですが、思いのほか早くその機会が出来ました。………姫様、お迎えに参りました」
侍女はアリーチェの前に跪くと、徐に侍女服の胸元を飾っていたブローチを外した。
「………スザンナ………っ?」
目の前にいる侍女が、見る見るうちによく見知った顔の女性に代わっていく様子に、アリーチェは目を見開いた。
彼女の名はスザンナ。アリーチェの専属侍女だった娘だった。
アリーチェが彼女の名を口にすると、スザンナは嬉しそうにほほ笑む。
それは、変わらない笑顔だった。………ただ一つ、彼女の額に残る無残な火傷の痕を除いては。
何一つ信じられない中で、自分は一体どうすればいいのか。
明確な目的を持って行動していたはずなのに、新たな事実を知れば知るほど、迷いが生じる。
もはや自分が生きている意味すらも、分からなくなっていた。
手にした書物に、視線だけを落としてパラパラと頁を捲るが、内容は全く頭に入らなかった。
溜息を一つ、静かに零すと、アリーチェは窓の外を見た。
目の覚めるような蒼穹に、真っ白な鳥が一羽、羽ばたいていくのが目に入った。
何の憂いもなく、そして迷いなく空を舞う姿は美しかった。
「わたくしも鳥のように、自由に空が飛べたらいいのに………」
誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、アリーチェは本を閉じ、じっとその鳥を見つめる。
何度も羽ばたきながら、自分自身の軌道を切り開いいける鳥が、羨ましかった。
こうしてただ鳥籠の中に閉じ込められ、何もできずに一生を終えるであろう自分には望めないことだから。
「………こうしていても気が滅入ってしまうから、少しだけ部屋の外に出たいわ」
アリーチェがそう声を掛けて立ち上がると控えていた侍女が、すぐに支度に取り掛かる。
その中に、ジネーヴラの姿が見えないことに気が付いた。
「あら?ジネーヴラは?」
「本日は非番でございます」
「そう………」
彼女の顔が見えないことに、寂しさを覚えたことに、アリーチェは気が付いた。
ジネーヴラはアリーチェが来た当初から、一日も欠かさずアリーチェの傍にいてくれた。
いつしかその環境が、アリーチェの中で当たり前になっていたのだろう。
「そうよね。ジネーヴラだって、休みを取ることもあるわよね……」
自分に言い聞かせるようにそう呟くアリーチェを手伝いながら、侍女が頷いた。
「じゃあ、今日はあなたがわたくしについてきてくれるのね?」
「………ずっと、この機会を待っていました」
微かな声で囁かれた、不穏な侍女の言葉に、アリーチェは眉を顰める。
「どういう、こと?」
どきりと、心臓が跳ねる。
「騎士のアマデオは捕まってしまったので………どうにか姫様を閣下のもとへお連れする方法を探っていたのですが、思いのほか早くその機会が出来ました。………姫様、お迎えに参りました」
侍女はアリーチェの前に跪くと、徐に侍女服の胸元を飾っていたブローチを外した。
「………スザンナ………っ?」
目の前にいる侍女が、見る見るうちによく見知った顔の女性に代わっていく様子に、アリーチェは目を見開いた。
彼女の名はスザンナ。アリーチェの専属侍女だった娘だった。
アリーチェが彼女の名を口にすると、スザンナは嬉しそうにほほ笑む。
それは、変わらない笑顔だった。………ただ一つ、彼女の額に残る無残な火傷の痕を除いては。
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