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33.疑念

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そのままルドヴィクの執務室を出たアリーチェは、自室へと戻り早々に床へと着いたが、どうしても気持ちが落ち着かず、寝付けなかった。

仰向けになりながらぼんやりと天井を見つめていると、先程のルドヴィクの話が脳裏に蘇り、アリーチェは胸が締め付けられるのを感じた。

甘く疼くようで、それなのに物凄く苦しい。
アリーチェは小さくうめき声を上げ、リネンをぎゅっと掴んだ。

「………何て………理不尽なの………?」

抵抗など出来る立場ではないルドヴィクの母を身籠らせたのも、ルドヴィクが城で冷遇されていた事を知りながら何もしなかったのも全て先王だというのに、慕っていた兄を目の前で失い、心に深い傷を負ったルドヴィクに対して、兄の代わりに王太子の座につくことを強要し、更には王家に相応しくないからとルドヴィクの左目を奪った先王の所業は、あまりにも身勝手だとアリーチェは思う。
そんな先王に対して、強い憤りを覚えるが、アリーチェに出来ることといったら、ルドヴィクの心の傷が少しでも癒えればと、切に願ってしまう。ルドヴィクを励ましたいと思うのに、それが出来ないのはアリーチェの胸の中で様々な想いがせめぎ合っているからだろう。

小さく溜息をつくと、アリーチェは瞼を静かに閉じた。
身内の中で唯一人、ルドヴィクを『家族』として扱ってくれた亡きシャルル王太子を未だに慕い、その死に激しい罪の意識を感じ続けているルドヴィクの心境を思うとやり切れない気持ちになった。

彼は間違いなく、兄の代わりに自分が命を落とせば良かったと思っているだろう。

思い出を語ってくれた時に垣間見えた、拷問でも受けているような表情をアリーチェは一生忘れることは出来ないだろう。
そして、あの表情を思い起こすと、「カヴァニスを攻め滅ぼしたのは、本当にルドヴィクなのだろうか」という疑念が強くなってくる。

今日改めて向き合ってみて分かったが、彼はぶっきらぼうで一見冷たく感じるが、優しく思慮深い性格であることが伺える。
そして、日頃の言動からも『騎士道』の礼節を重んじているということもよく分かる。

そんな人物が、本当に奇襲攻撃を仕掛け、同盟国を攻め滅ぼす事にどんな意味があるのだろう。

考えれば考えるほどに、以前から感じていた違和感が大きくなっていく。

「………陛下は、一体何を隠してらっしゃるの………?」

アリーチェは誰も答えることのない疑問を、独り呟いた。
そして、悲しげに顔を歪める。

拒絶されてもなお、敵であるルドヴィクと共にありたいと願ってしまう自身の心を、どう否定すればいいのかも分からずに、何故か無性に泣きたくなるのを、必死に堪えることしか出来なかった。
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