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31.ルドヴィクの過去(3)

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アリーチェの顔色が、薄闇の中でも判るほどに青褪めていくことに気がついたのか、ルドヴィクは少し困惑した表情を浮かべた。

「………聞いていて、気分のいいものではないだろう………。すまなかった」

辛く、苦しい記憶を辿りながら語る方が遥かに辛いだろうとアリーチェは思った。
確かに聞いていて、気分の良いものではないし、予想だにしていなかった事実に、意識が遠のきそうだ。
だがルドヴィクは初めて、語ろうとしなかった過去をアリーチェに明かしてくれたのだ。

アリーチェはゆっくりと深呼吸をすると腹に力を込めて姿勢を正した。

「………いえ。教えてほしいと願ったのは、わたくしですから、謝罪は不要ですわ。………しかし、実の親が子にすることでは………。第一、陛下の左目が王家の色と異なることを皆が知っているのに………!」

王家の色でない。
たったそれだけ。………たったそれだけの理由でルドヴィクは視界の半分を永遠に失ったのだと思うと、喉元に苦いものが込み上げてきた。

「先王は、その場に居合わせた真実を知る貴族達には箝口令が敷き、国民に対しては『暗殺者からシャルル王太子を守ろうとして左目を失った』と公表した。一般的には私の存在など認知されていない。………先王にとっては都合が良かったのだろうな」

そう呟くと、ルドヴィクは感情の籠らない、乾いた笑い声を弱々しく上げた。

「………私があの時兄を守れていれば………、いっそ兄の代わりに私が命を落としていれば………この目は失われることなく、最後まで私と共にあったのだ。故にこの傷は、私の罪の証。………正当な王の血を受け継いだ兄を守れず、おめおめと生き延びた、半分しか王の証を持てなかった、正当ではない血を持つ私に、先王が残した消えない罰なのだ」
「……………っ」

『隻眼の騎士王』。
一見、威厳のある彼の通り名が、今ほど残酷に思えた事はなかった。
隻眼となった理由も、騎士を志した理由も、そして王となった経緯も、その全てが彼にとっては辛すぎる記憶でしかないのに、その名で呼ばれる彼の苦悩は計り知れない。

本来であれば、ルドヴィクが『罪の意識』を抱くべきなのはカヴァニス祖国を滅ぼしたことに対してだろうと詰るべきなのだろうが、アリーチェには、ルドヴィクにそのような言葉をぶつけることは出来なかった。

血の繋がった、実の親によって為された、あまりにも理不尽で残酷な仕打ちに、一体彼はどれだけ苦しんできたのだろう。
ルドヴィクの気持ちを想像するだけで、アリーチェの視界はゆらりとぼやける。

「………今話したのが、この傷の真相だ」

いつの間にか、ルドヴィクは何事もなかったかのようにいつも通りの冷たい表情に戻っていた。
アリーチェは涙が零れないように唇を噛み締めると、両手を強く握ったのだった。
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