72 / 102
本編
第七十四話
しおりを挟む
それから暫く、私は王宮に留まる許可を貰い、ジェイド様の看病に徹した。
あのいい雰囲気だったところを邪魔したお医者様は、空気は読めないけれど腕は良かったようで、かなり深かった傷もすっかり良くなり、傷跡こそ残るけれど、それ以外はすっかり元通りになった。
「エリーゼには、随分と世話をかけたな」
「私はジェイド様の従者ですからね。お世話するのは当然ですわ」
あの日から、ジェイド様があの言葉の続きを話してくださるような気配はない。
私は正直いつも気持ちが落ち着かないのですけれど。
今日は、寝たきりで落ちてしまった体力回復の為に、王都サラディスの近くにある湖まで遠乗りに来ている。
どうやら、エルカリオンでは頻繁に乗馬が行われているらしい。
………もう、苦手などと言っていられないですわね。
「エリーゼにも苦手なものがあるとはな」
「私を、何だとお思いですの?」
ジェイド様の隣に座ると自然と笑みが溢れる。
「以前に比べて、表情が豊かになったな。それに、己の感情を表に出すようになった」
真っ青な空を眺めながら、ジェイド様がそう呟いた。
「そ、そうでしょうか?」
突然の指摘に、何故か私は慌ててしまう。
「もしかして、ご気分を害されましたか?」
お義母様のアドバイス通りにしているけれど、ジェイド様は不快に思われたかもしれないわ。
私は不安になりながら尋ねた。
「いや、そのほうがずっといい。いつも凛としているエリーゼもいいが、表情がくるくると変わる様子も見ていて飽きない。ただ………」
ジェイド様が私の方に向き直った。
琥珀色の瞳が、射抜くように私を見ている。
ジェイド様に見つめられると、私の鼓動は自然と早くなっていく。
「他の男の前で、そんな顔を見せるな」
「………ジェイドさま、それは………」
ジェイド様は少し目を伏せたあと、すうっと息を吸い込み、また私に視線を合わせた。
「私は、エリーゼの事が好きだ。おそらく、初めて逢った、あの夜会の時からずっと、そなたを想っていた」
私の、呼吸が止まった。
それはずっと待っていた、あの言葉の続き。
ジェイドさまが、わたしをすき?
もしかして、と想像はしていたけれど、実際にジェイド様の口からそんな言葉が出てくるなんて、信じられない。
嬉しいのと、驚きと、感動が入り混じり、私の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
あのいい雰囲気だったところを邪魔したお医者様は、空気は読めないけれど腕は良かったようで、かなり深かった傷もすっかり良くなり、傷跡こそ残るけれど、それ以外はすっかり元通りになった。
「エリーゼには、随分と世話をかけたな」
「私はジェイド様の従者ですからね。お世話するのは当然ですわ」
あの日から、ジェイド様があの言葉の続きを話してくださるような気配はない。
私は正直いつも気持ちが落ち着かないのですけれど。
今日は、寝たきりで落ちてしまった体力回復の為に、王都サラディスの近くにある湖まで遠乗りに来ている。
どうやら、エルカリオンでは頻繁に乗馬が行われているらしい。
………もう、苦手などと言っていられないですわね。
「エリーゼにも苦手なものがあるとはな」
「私を、何だとお思いですの?」
ジェイド様の隣に座ると自然と笑みが溢れる。
「以前に比べて、表情が豊かになったな。それに、己の感情を表に出すようになった」
真っ青な空を眺めながら、ジェイド様がそう呟いた。
「そ、そうでしょうか?」
突然の指摘に、何故か私は慌ててしまう。
「もしかして、ご気分を害されましたか?」
お義母様のアドバイス通りにしているけれど、ジェイド様は不快に思われたかもしれないわ。
私は不安になりながら尋ねた。
「いや、そのほうがずっといい。いつも凛としているエリーゼもいいが、表情がくるくると変わる様子も見ていて飽きない。ただ………」
ジェイド様が私の方に向き直った。
琥珀色の瞳が、射抜くように私を見ている。
ジェイド様に見つめられると、私の鼓動は自然と早くなっていく。
「他の男の前で、そんな顔を見せるな」
「………ジェイドさま、それは………」
ジェイド様は少し目を伏せたあと、すうっと息を吸い込み、また私に視線を合わせた。
「私は、エリーゼの事が好きだ。おそらく、初めて逢った、あの夜会の時からずっと、そなたを想っていた」
私の、呼吸が止まった。
それはずっと待っていた、あの言葉の続き。
ジェイドさまが、わたしをすき?
もしかして、と想像はしていたけれど、実際にジェイド様の口からそんな言葉が出てくるなんて、信じられない。
嬉しいのと、驚きと、感動が入り混じり、私の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。
12
お気に入りに追加
827
あなたにおすすめの小説
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】姫将軍の政略結婚
ユリーカ
恋愛
姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。
姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。
人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。
自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。
不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。
スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。
※ 全話完結済み。7時20時更新します。
※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。
※ 第四章で魔物との戦闘があります。
※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる