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本編

第六十四話

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「自分の感情………」

私は困り果ててしまう。一体、何をどうすれば良いのかしら。

「あまり堅苦しく考えちゃ駄目よ?というか、頭ではなくて心で感じてみて?」

そう仰られても、私は常に公を優先し、個は捨ててきた。今更個を尊重しろと言われてもやり方が分かりませんわ。
蘇るのは、幼いときの、お父様の言葉。

「良いか、エリーゼ。貴族たるもの、国の礎となり、自分を犠牲としても国や民の幸せのために生きなければならない。それを忘れるな」

普段、研究や国務でお忙しいお父様が、幼い私に唯一教えてくださった事。
それは私の中で、貴族のあるべき姿として深く根付いている。
私は、考え込んだ。

「………コーネリアス殿は、子供に厳しすぎたみたいね」

呆れ顔のお義母様が、何かを思い立ったようで、近くにいたレベッカに何かを耳打ちなさっている。
すると、レベッカが何かを持ってきて私に差し出す。

「それはね、ヨーカンという、東国の島国で食べられている「」珍しいお菓子なの。ちょっと食べてみて、どう感じるか教えて頂戴?」

差し出されたのは、黒くてツヤツヤしたパテのような食べ物。これがお菓子なのかしら?
私はそれをフォークで切り分けて恐る恐る口へと運ぶ。

「………甘い、ですわ」
「………他には?」

え?他に何か感想を言わなければいけないの?

「意外に、つるっとしてますわね」

私がそこまで言うと、お義母様とレベッカが溜息をついた。

「奥様、エリーゼ様はなかなか重症のようですね………」
「そうね………。ちょっと、予想していたより手強そうだわ」

お二人はコソコソと何かを話してらっしゃるけれど、よく聞こえませんわね。

「あのね、エリーゼちゃん」
「はい」
「甘いとか、つるっとしているとかって言うのはね、物体そのものの事実であって、エリーゼちゃん個人がこのお菓子をどのようなものと考えているの?」

私は、言われている言葉自体が理解できずにまた悩んでしまう。
事実と感想。一体、何が違うと言うのだろう。
その違いすらも、実際はよく分かっていない。
………これって、正解があるのかしら?
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