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本編

第五十七話(ジェイド視点)

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それから、一曲だけエリーゼとダンスを踊ると、早々に会場から抜け出した。
本当はもっとエリーゼを堪能したいところだが、今はそれどころではない。

そもそも、私はエリーゼに、男として意識されているかすらも怪しいのではないだろうか。
今までは、何もせずとも女性たちが擦り寄ってきた。自分から女性を追いかける日が来るとは夢にも思わなかったのだ。
だから、どのようにすればエリーゼが喜ぶのか、皆目見当がつかない。

「ジェイド様?」

帰りの馬車の中で、私が悩んでいると、その悩みの種が私に呼びかけてきた。

「どうかされましたか?」
「いや………」

手っ取り早く、私の気持ちを打ち明けてしまおうか………いや、まず私を男として意識してもらうほうが先だろう。

「何か、気になることでもありましたか?」
「いや………」
「では、心配事ですか?」
「………少し黙っていろ」
「はい」

エリーゼは、本気で自分が私の従者であると思っている。………いや、私がそう宣言したのだから仕方のない事だけれど。
ここで、私がエリーゼを妃にするつもりで連れてきたと明かしたら、どんな顔をするだろうか。
そんな事を考えていたらあっという間にキャメロット公爵邸に着いてしまった。

馬車から降りようとするエリーゼを、さりげなくエスコートする。
と。

「きゃ………」

エリーゼが体勢を崩して馬車のステップから落ちそうになる。
危ない!

「エリーゼ!」

私は咄嗟にエリーゼの正面に出て、抱きとめる。
間に合って良かった………。

「あ、ありがとうございます」
「大事ないか?」
「ええ、お陰様で」

エリーゼの美しいアイスブルーの瞳が私の目の前にある。
このまま、エリーゼの唇を奪ってしまいたい………。そんな衝動に駆られる。………駄目だ。それはユピテル神の教えに反する行為だ。肉欲のままに動いたら、それこそエリーゼの元婚約者と変わらないではないか。私の、エリーゼへの想いはそんなものなのか?
私は欲望を、理性で押し込めた。

「もっ、申し訳ございませんでした!」

それでも、慌てて私から離れようとするエリーゼの背中に腕を回して抱き締めた。別にやましい行為ではないし、これ位は許されるだろう。

「あ、あの、ジェイド様?お離しください」
「今日のそなたを見たときから………ずっと、こうして抱き締めたいと思っていた………」
「ジェ、ジェイド様?」

少しだけ、自分の心を素直に伝えてみよう。
いくら鈍感なエリーゼでも、そこまで言われれば意識するだろう。
ところが。

「気分でも悪いのですか?」

………何でだ。
まさか、エリーゼは私が酒に酔っているとでも思っているのか?
私は挫けそうになる心を励まそうと、エリーゼを抱く手に更に力を込めた。

「そんな訳あるか。少し黙れ」

私は、エリーゼの耳元でそう囁く。

「今日の夜会に参加したのは、そなたが私のものだと皆に知らしめたいという、私の我儘だったのだ。許せ」

ここまで告げても、効果が無いとしたら、私はどうすれば良いのだ?
………悔しいが、サイラスにでも相談してみるか。
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