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本編

第五十二話

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グラッドフォード公爵邸での夜会の帰り道。
結局あの後はジェイド様と一曲だけダンスをして失礼してきてしまった。

「ジェイド様?」

馬車の中で、ジェイド様は終始無言。またご機嫌が悪いのかと思いきや、そうでもないらしい。何というか、悩んでいるような雰囲気だ。

「どうかされましたか?」
「いや………」

私の顔をずっと眺めていたかと思うと、目を閉じて考え事をしてらっしゃる。………はっきり言って、訳が分かりません。

「何か、気になることでもありましたか?」
「いや………」
「では、心配事ですか?」
「………少し黙っていろ」
「はい」

結局、そんな調子で時間が過ぎ、キャメロット公爵邸に到着したのだった。

馬車から降りようとすると、ジェイド様が手を貸してくださる。
と。

「きゃ………」

慣れない形のドレスの裾が足に絡みついて、もつれてしまう。

「エリーゼ!」

ジェイド様が咄嗟に私の正面に出て、抱きとめて下さり、事なきを得た。

「あ、ありがとうございます」
「大事ないか?」
「ええ、お陰様で」

私が顔を上げると、すぐ近くにジェイド様の麗しいお顔が。
よく考えたら私、ジェイド様の胸に飛び込んだ形ではないの?………なんてふしだらな!

「もっ、申し訳ございませんでした!」

私は恥ずかしくなり、慌ててジェイド様から離れようとする。でも、ジェイド様の腕が私の背中まで回されて動けませんわ。

「あ、あの、ジェイド様?お離しください」
「今日のそなたを見たときから………ずっと、こうして抱き締めたいと思っていた………」
「ジェ、ジェイド様?」

どうされたのかしら?そんなにお酒を召されていた訳ではないと思いますけれど。
いや、ジェイド様がお酒に強いとは限りませんわね。見た目のイメージで判断しては駄目ですわ。

「気分でも悪いのですか?」

すると、ジェイド様は私を抱く手に更に力を込めた。
ええ?これは一体どういうことでしょう?

「そんな訳あるか。少し黙れ」

ジェイド様の声が、耳元でそう囁く。
その途端に、体中の血液が沸騰したように熱くなるのを感じた。

「今日の夜会に参加したのは、そなたが私のものだと皆に知らしめたいという、私の我儘だったのだ。許せ」

そんな事をしなくても、私がジェイド様の従者だという事は、周知の事実だと思いますけれど………?
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