1 / 102
本編
第一話
しおりを挟む
「エリーゼ・マロウ!お前との婚約を破棄する!」
夜会の真っ最中、公衆の面前で叫んでいるのは、アーロン・ジャーマンダー公爵令息。残念ながらこの私、マロウ侯爵令嬢であるエリーゼ・マロウの婚約者だ。そして喚き散らすアーロン様の隣には、肉感的で小柄な令嬢がピッタリと寄り添い、何故か勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。
突然の大声に、流れていた音楽はとまり、会場にいた人達は何事かとアーロン様達と私を交互に見ている。
はぁ………これが最近恋愛小説なんかでよく見かける「婚約破棄、のち断罪劇場」ね。………全く、頭の出来を疑いますわね。
私は深ーい溜息をついた。
「………理由を、お聞かせ願えますか?」
本当は理由なんてどうでもいいけど、そちらがその気なら私も茶番劇に付き合って差し上げましょう。
「俺は、このボニータ・ビッテルハイム男爵令嬢との真実の愛に目覚めたのだ!それに聞けばお前は俺の愛しいボニータに陰湿な嫌がらせをしていたと言うではないか!そんな女は俺にふさわしくない!」
はい、出た。恋愛小説通りの筋書き。ツッコミどころがあり過ぎて困りますわ。
「どうだ!反論する気にもならないか!」
アーロン様。以前から傲慢で、勉学も苦手で、どう見ても人格的に不具合があると思っておりましたがここまでとは、非常に残念ですわ。公爵様はとても素晴らしい方だというのに………。
さて、どう調理しましょうかね。
「少々呆れて物が言えなかっただけですわ。大体、こんな公衆の面前で大声を出して、夜会を中断させ、婚約破棄をする必要がありまして?」
「なっ!」
私はいつも小説でこんなシーンが出てくるたびにツッコミを入れていた。婚約は家同士の契約なので、わざわざ大衆の前で宣言する必要なんて全くない。書面で双方か同意すれば済む話だろう、と。………まさかそれが自分の身に実際に起こるとは思っていなかったのですけれど。
「そもそも真実の愛などと仰いますが、誰がどうやって証明するのです?そもそも婚約者がいる身でありながら、別の令嬢と真実の愛を語るですって?それはご自分が不実であると宣言しているのと同じではありませんの?」
「そ………それはだな…………!」
私はアーロン様の答えを待つことなく、更に問い詰める。
「それに陰湿な嫌がらせ?そちらのご令嬢とは面識がありません。今が初対面ですわ。それを一方からの言い分のみで判断するとは、公平性にかけますわよね。第一、証拠はありますの?この年になって公平かつ冷静な判断が出来ないようであれば、公爵家の恥晒しですわ」
私はそこまで言い切ると、アーロン様の出方を待つ。
「黙って聞いていれば………!お前のその生意気な所が気に入らないんだよ!俺より少しばかり賢いと思って、俺の事を見下していただろう………!」
あら、気が付いていたのですね。
ただ、少しばかりではなく、貴方と私の頭の出来は天地ほどの差がありますのでそこは訂正したいのですけど。
「顔だけはいいから、仕方なく婚約者にしてやったが、美人は三日で飽きると言うからな。冷たい人形のようなお前と違って、ボニータは愛嬌があって従順だし、身の程をわきまえている」
は?身の程を弁えているのなら、婚約者がいる令息になんて手は出さないでしょう。そもそもこの件は公爵様はご存知なのかしら?
「ボイーン嬢の事は、公爵様はご存知なのですか?」
「失礼ね!ボイーンじゃなくてボニータよ!」
だって、体形がボイーン………胸にばかり意識がいって、つい間違えてしまった。これは確かに失礼でしたわね。
「父上は認めてくれるさ。何と言っても俺達は真実の愛で結ばれているからな」
………この人、私の話聞いてたのかしら?何よ、真実の愛って。
夜会の真っ最中、公衆の面前で叫んでいるのは、アーロン・ジャーマンダー公爵令息。残念ながらこの私、マロウ侯爵令嬢であるエリーゼ・マロウの婚約者だ。そして喚き散らすアーロン様の隣には、肉感的で小柄な令嬢がピッタリと寄り添い、何故か勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。
突然の大声に、流れていた音楽はとまり、会場にいた人達は何事かとアーロン様達と私を交互に見ている。
はぁ………これが最近恋愛小説なんかでよく見かける「婚約破棄、のち断罪劇場」ね。………全く、頭の出来を疑いますわね。
私は深ーい溜息をついた。
「………理由を、お聞かせ願えますか?」
本当は理由なんてどうでもいいけど、そちらがその気なら私も茶番劇に付き合って差し上げましょう。
「俺は、このボニータ・ビッテルハイム男爵令嬢との真実の愛に目覚めたのだ!それに聞けばお前は俺の愛しいボニータに陰湿な嫌がらせをしていたと言うではないか!そんな女は俺にふさわしくない!」
はい、出た。恋愛小説通りの筋書き。ツッコミどころがあり過ぎて困りますわ。
「どうだ!反論する気にもならないか!」
アーロン様。以前から傲慢で、勉学も苦手で、どう見ても人格的に不具合があると思っておりましたがここまでとは、非常に残念ですわ。公爵様はとても素晴らしい方だというのに………。
さて、どう調理しましょうかね。
「少々呆れて物が言えなかっただけですわ。大体、こんな公衆の面前で大声を出して、夜会を中断させ、婚約破棄をする必要がありまして?」
「なっ!」
私はいつも小説でこんなシーンが出てくるたびにツッコミを入れていた。婚約は家同士の契約なので、わざわざ大衆の前で宣言する必要なんて全くない。書面で双方か同意すれば済む話だろう、と。………まさかそれが自分の身に実際に起こるとは思っていなかったのですけれど。
「そもそも真実の愛などと仰いますが、誰がどうやって証明するのです?そもそも婚約者がいる身でありながら、別の令嬢と真実の愛を語るですって?それはご自分が不実であると宣言しているのと同じではありませんの?」
「そ………それはだな…………!」
私はアーロン様の答えを待つことなく、更に問い詰める。
「それに陰湿な嫌がらせ?そちらのご令嬢とは面識がありません。今が初対面ですわ。それを一方からの言い分のみで判断するとは、公平性にかけますわよね。第一、証拠はありますの?この年になって公平かつ冷静な判断が出来ないようであれば、公爵家の恥晒しですわ」
私はそこまで言い切ると、アーロン様の出方を待つ。
「黙って聞いていれば………!お前のその生意気な所が気に入らないんだよ!俺より少しばかり賢いと思って、俺の事を見下していただろう………!」
あら、気が付いていたのですね。
ただ、少しばかりではなく、貴方と私の頭の出来は天地ほどの差がありますのでそこは訂正したいのですけど。
「顔だけはいいから、仕方なく婚約者にしてやったが、美人は三日で飽きると言うからな。冷たい人形のようなお前と違って、ボニータは愛嬌があって従順だし、身の程をわきまえている」
は?身の程を弁えているのなら、婚約者がいる令息になんて手は出さないでしょう。そもそもこの件は公爵様はご存知なのかしら?
「ボイーン嬢の事は、公爵様はご存知なのですか?」
「失礼ね!ボイーンじゃなくてボニータよ!」
だって、体形がボイーン………胸にばかり意識がいって、つい間違えてしまった。これは確かに失礼でしたわね。
「父上は認めてくれるさ。何と言っても俺達は真実の愛で結ばれているからな」
………この人、私の話聞いてたのかしら?何よ、真実の愛って。
7
お気に入りに追加
826
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる