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学園一年生編

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「………ねぇ、何があったのか話してくれないかな?」
「………別に、何もありません」

帰りの馬車の中は気まずい空気が流れていた。
原因は私の態度なのは、分かっている。
あの後、アルフレッド様を振り切って医務室に行き、気分が悪いと休ませてもらった。
気分が悪いのは嘘じゃない。混乱と、絶望で倒れそうだったもの。
ベッドで横になって、声を押し殺して泣いていたらいつの間にか眠ってしまっていた。
放課になり、私を迎えに来たアルフレッド様に、私は連行された。
帰りの送りを断ろうとしたけれど、物凄く怒った顔をしたアルフレッド様に、それを言い出す勇気は私にはなかった。

「……何か隠しているよね?」

アルフレッド様の質問は、まるで尋問のようだ。
口調こそ、いつも通り穏やかに聞こえるけれど、声が厳しい。
多分、怒りを押し殺して語りかけているんだと思う。

「どうして………そう思うのですか?」

私は俯いたまま、質問に質問で返した。
泣いていたから、少し瞼が腫れぼったい。それをアルフレッド様に気が付かせたくないから、医務室に迎えに来た時から目を合わせていない。

「………まさか、バンクシア侯爵令嬢が何かいってきたとか?」

その言葉に、私は思わずぴくりと反応してしまった。
私が何も話さないのに、カトリーナの名前が出てくるということは、アルフレッド様に思い当たる節があるからだろう。
やはり、私の知らないところで、私との婚約を白紙に戻す話が進んでいるに違いない。

私がどんなにアルフレッド様を好きでも、その気持ちだけでは結ばれない。
個人の感情が尊重される前世とは違い、この世界は貴族社会。そしてアルフレッド様はその頂点に立つ王族だ。
アルフレッド様の隣に立つのに相応しい、ウィステリア王国の利益になる人物でなければ彼と結ばれる事はないんだと、この世界に転生して学んだ。

私が知るこの世界は、乙女ゲームの中だから、男爵令嬢だったオルティア主人公が、アルフレッド様とのルートを選べば、アルフレッド様と結ばれるエンディングを迎えることになっていたけれど、現実にはそんなシンデレラストーリーは起こり得ないのだ。

「……いいえ」

私は短く答えた。
ちょうどその時、馬車が停まった。
………天の助けだ。
アルフレッド様から解放されることに、私は心の底から安堵したのだった。
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