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学園一年生編
25(アルフレッド視点)
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入学から半年が経ったある日、事件は起きた。
男女別の授業の帰りに、ジルが階段から落ちたのだ。遠くからその様子を見た私は、目の前が真っ暗になった。
どうにかして助けなければ………!
持っていたものをかなぐり捨てると、私は全速力で階段へと駆け出すが、間に合わない。
「くそっ!」
と。
落下するジルを、オルティアが見事に受け止めたのだ。
その様は、まるで姫君の危機を救った本物の王子のようだった。
ジルが怪我をせずに済んだのは本当に良かったが、助けたのがあいつだということが、無性に腹立たしかった。
その上、奴は鼻先がくっつきそうな程に顔を寄せて、ジルを覗き込んでいて、ジルは顔を赤らめているではないか。
「ジル!!」
私は二人に駆け寄ると、オルティアを睨みつけた。
ジルが怖がるかもしれないが、今は奴から引き剥がすのが先だ。
「オルティア、ジルを離せ」
するとオルティアは素直にジルを解放する。
「……お姫様の危機を救うのが王子様の役割のはずでは?そんな事では、大切な姫君をどこの馬の骨ともしれない輩に横取りされるかもしれませんよ?」
そう言ってオルティアはくすりと笑った。
「何だと……?」
思わず殴り掛かりそうになるのをぐっと堪えると、私はジルを呼びつけた。
「ジル!こっちに来るんだ」
そう言って、彼女の様子を観察する。……やはり脅えているようだ。
歩み寄る彼女を抱きすくめ、オルティアから隠すような格好を取る。
「……ジルを助けてくれたことは、礼を言う。だが、ジルに気安く触るな」
オルティアは一瞬、怒りを浮かべたけれど、何も言わず、くるりと背を向けてその場を立ち去っていった。
私は安堵の溜息をつき、ジルを抱え上げる。
「ネイサン。ジルの体調が良くないようだから早退すると、伝えておいてくれ」
「え、あ……あの、殿下?!」
後ろに付いてきていたネイサンにそう告げ、歩き出した。
「アルフレッド様……私、怪我はしていませんし、具合も悪くないです……」
珍しく、ジルが意見してきた。オルティア絡みだと口数が増えるのは私の思い過ごしなのだろうか?………だが、不愉快だ。
「……ジル。あれほどオルティアには近づかないようにと言ったはずだけど?」
いつものように穏やかな態度を取ろうとするが、上手くいかない。怒りが先に出てしまう。
「……あの、あれは……不可抗力で……」
「不可抗力なのは分かっている。悔しいが、あいつのお陰でジルが怪我をせずに済んだのも事実だしね。……でも、私が怒っているのは、君がオルティアを見つめていた事だ。……まさか、ジルはオルティアに気があって、彼の気を引くためにわざと階段から落ちたんじゃないよね?」
ジルはそんな事をする子ではないと分かっているけれど、敢えて私は質問してみた。
するとジルは慌てて首を横に振る。
「……そんな、私は……」
ジルは今にも泣き出しそうになった。………ああ、堪らない表情だ………。
「……真っ青な顔をして……あぁ、冗談だよ。私のかわいいジル。君がそんなことをする子じゃないって、分かっているからね」
これ以上苛めるのは危険だと思い、私は慌てていつもの穏やかな王太子の仮面をかぶる。
「死ぬかもしれないと思ったら、凄く怖かったです……」
そう言って、ジルは涙を零す。
……ああ、やはり彼女の泣き顔は最高だ。
私は笑みを浮かべた。
男女別の授業の帰りに、ジルが階段から落ちたのだ。遠くからその様子を見た私は、目の前が真っ暗になった。
どうにかして助けなければ………!
持っていたものをかなぐり捨てると、私は全速力で階段へと駆け出すが、間に合わない。
「くそっ!」
と。
落下するジルを、オルティアが見事に受け止めたのだ。
その様は、まるで姫君の危機を救った本物の王子のようだった。
ジルが怪我をせずに済んだのは本当に良かったが、助けたのがあいつだということが、無性に腹立たしかった。
その上、奴は鼻先がくっつきそうな程に顔を寄せて、ジルを覗き込んでいて、ジルは顔を赤らめているではないか。
「ジル!!」
私は二人に駆け寄ると、オルティアを睨みつけた。
ジルが怖がるかもしれないが、今は奴から引き剥がすのが先だ。
「オルティア、ジルを離せ」
するとオルティアは素直にジルを解放する。
「……お姫様の危機を救うのが王子様の役割のはずでは?そんな事では、大切な姫君をどこの馬の骨ともしれない輩に横取りされるかもしれませんよ?」
そう言ってオルティアはくすりと笑った。
「何だと……?」
思わず殴り掛かりそうになるのをぐっと堪えると、私はジルを呼びつけた。
「ジル!こっちに来るんだ」
そう言って、彼女の様子を観察する。……やはり脅えているようだ。
歩み寄る彼女を抱きすくめ、オルティアから隠すような格好を取る。
「……ジルを助けてくれたことは、礼を言う。だが、ジルに気安く触るな」
オルティアは一瞬、怒りを浮かべたけれど、何も言わず、くるりと背を向けてその場を立ち去っていった。
私は安堵の溜息をつき、ジルを抱え上げる。
「ネイサン。ジルの体調が良くないようだから早退すると、伝えておいてくれ」
「え、あ……あの、殿下?!」
後ろに付いてきていたネイサンにそう告げ、歩き出した。
「アルフレッド様……私、怪我はしていませんし、具合も悪くないです……」
珍しく、ジルが意見してきた。オルティア絡みだと口数が増えるのは私の思い過ごしなのだろうか?………だが、不愉快だ。
「……ジル。あれほどオルティアには近づかないようにと言ったはずだけど?」
いつものように穏やかな態度を取ろうとするが、上手くいかない。怒りが先に出てしまう。
「……あの、あれは……不可抗力で……」
「不可抗力なのは分かっている。悔しいが、あいつのお陰でジルが怪我をせずに済んだのも事実だしね。……でも、私が怒っているのは、君がオルティアを見つめていた事だ。……まさか、ジルはオルティアに気があって、彼の気を引くためにわざと階段から落ちたんじゃないよね?」
ジルはそんな事をする子ではないと分かっているけれど、敢えて私は質問してみた。
するとジルは慌てて首を横に振る。
「……そんな、私は……」
ジルは今にも泣き出しそうになった。………ああ、堪らない表情だ………。
「……真っ青な顔をして……あぁ、冗談だよ。私のかわいいジル。君がそんなことをする子じゃないって、分かっているからね」
これ以上苛めるのは危険だと思い、私は慌てていつもの穏やかな王太子の仮面をかぶる。
「死ぬかもしれないと思ったら、凄く怖かったです……」
そう言って、ジルは涙を零す。
……ああ、やはり彼女の泣き顔は最高だ。
私は笑みを浮かべた。
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