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150.黒焔公爵と春の姫
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それから数年後。
「母上!母上!」
イースボル城の温室に、小さな男の子の声が響く。
「どうしたの、リュカ?」
私は立上がると駆け寄ってくる息子を抱き止めた。
「父上が視察から戻ってきますってオーキッドが呼んでいます!」
アデルバート様によく似た顔立ちと黒髪、そして右目はアイスブルー、左目は深紅のオッドアイを持って生まれた息子に、アデルバート様は「リュカラーシュ」と名付けた。
アデルバート様も私も、リュカラーシュを大切に、慈しんで育てている。
「あら、もうそんな時間なのね。では一緒にお迎えをしましょうね」
「はい、母上!」
元気よく答えたリュカラーシュはもうすぐ四歳になる。そしてあと数ヵ月後にはお腹の子の兄となる予定だ。
私はリュカラーシュと手を繋ぎ、エントランスホールへと急いだ。
「父上!!」
既に到着していたアデルバート様を見つけた瞬間にリュカラーシュは私の手を離してアデルバート様の方へと駆けていく。
「リュカ!いい子にしていたか?」
アデルバート様はリュカラーシュを見て破顔し、抱き上げる。
「はい!母上とドミニクの言うことを聞いて、父上の留守をしっかり守りました!」
「それでこそ、私の自慢の息子だ。褒美に後で稽古をつけてやろう」
「本当ですか?!やったあ!」
目を輝かせて喜ぶリュカラーシュの黒髪をゆっくりと撫でながら、アデルバート様は私に向き直る。
「……大事ないか?」
「お出迎えが遅くなり、申し訳ございません。でも、アデルバート様……たった一日留守にされていただけではありませんか」
私がそう言って笑うとアデルバート様はリュカラーシュを抱っこしたまま歩みより、私のお腹に手を当てた。
ドレスの上からでも、ふっくらとしてきたのが分かる。
「うむ……。リュカが腹にいた時も心配だったが、やはり子を育むというのはそれなりに負担がかかるであろう?」
アデルバート様は私がリュカラーシュを宿して以降、とても心配性になられた。そして、リュカラーシュが生まれてからはリュカと私を甘やかしてくる。………最恐将軍とは思えないような、幸せそうな顔をなさって。
あれから、冬が長いのは変わりないけれど、極北の公爵領にも四季が巡るようになり、僅かながら作物が収穫できるようになった。
収穫の喜びを噛みしめるたびに、ラーシュが自分の命を捨てて、呪いを解いてくれたのだと、実感する。
それから、リーテの村に移り住んだスネーストルムの生き残りは、少しずつ公爵領の生活に馴染み、今では他の村とも交流があるようだ。
時々アルヴァが、リュカラーシュの様子を見に来る時に、村の様子を聞かせてくれる。
そのアルヴァも、ティストの町でパン屋を営んでいる娘と、恋仲になっているらしい。
恋仲といえば、ドミニクとエブリンは来月挙式予定になっている。ドミニクは私を守れなかったことで護衛騎士を解任されそうになったけれど、アデルバート様を必死に説得し、事なきを得た。
あれは多分……私を護衛したいのではなく、その方がエブリンと一緒にいられる時間が長くなるからではないかしら……。
「立っていると疲れるだろう。リュカ、私は母上を連れて行くから、ドミニクと一緒に部屋に戻りなさい」
「はいっ。でも、稽古の約束は忘れないで下さいね!」
「ああ、分かっている」
子守役がすっかり板についたドミニクを引き連れ、駆けていくリュカラーシュを見つめ、それからアデルバート様は私を抱き上げた。
「……国王陛下は、こうなることを見越していたのだろうか……?」
「……さあ、どうでしょうね?」
アデルバート様がふと呟いた言葉に、私は笑う。
役立たずの聖女の私が最恐将軍に嫁いだら、思いもよらない溺愛と、公爵領の平和が待っているなんて、国王陛下どころか誰も考えもしなかったでしょう。
いつか子供達が大きくなったら、炎の竜を宿した黒焔公爵と春の女神の加護を受けた春の姫の物語を、聞かせてあげましょう。
私はアデルバート様の口付けを受けながら、そんな夢を思い描くのだった。
※※※あとがき※※※
『黒焔公爵と春の姫~役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら~』をお読みいただきありがとうございます!
思いの外長いお話になってしまいましたが、これにて完結となります!
あとは気まぐれに後日談などを数話掲載予定です。
アデルバート様がもろに私の好みの男性で、書いていてとても楽しかったのですが、ドミニクとエブリンをもう少し活躍させたかったなと思います。
………特にドミニク。最終的にただのヘタレです。
余談ですが、作品中の詠唱呪文は基本ロシア語ですが、ロシア語読めない……。
「母上!母上!」
イースボル城の温室に、小さな男の子の声が響く。
「どうしたの、リュカ?」
私は立上がると駆け寄ってくる息子を抱き止めた。
「父上が視察から戻ってきますってオーキッドが呼んでいます!」
アデルバート様によく似た顔立ちと黒髪、そして右目はアイスブルー、左目は深紅のオッドアイを持って生まれた息子に、アデルバート様は「リュカラーシュ」と名付けた。
アデルバート様も私も、リュカラーシュを大切に、慈しんで育てている。
「あら、もうそんな時間なのね。では一緒にお迎えをしましょうね」
「はい、母上!」
元気よく答えたリュカラーシュはもうすぐ四歳になる。そしてあと数ヵ月後にはお腹の子の兄となる予定だ。
私はリュカラーシュと手を繋ぎ、エントランスホールへと急いだ。
「父上!!」
既に到着していたアデルバート様を見つけた瞬間にリュカラーシュは私の手を離してアデルバート様の方へと駆けていく。
「リュカ!いい子にしていたか?」
アデルバート様はリュカラーシュを見て破顔し、抱き上げる。
「はい!母上とドミニクの言うことを聞いて、父上の留守をしっかり守りました!」
「それでこそ、私の自慢の息子だ。褒美に後で稽古をつけてやろう」
「本当ですか?!やったあ!」
目を輝かせて喜ぶリュカラーシュの黒髪をゆっくりと撫でながら、アデルバート様は私に向き直る。
「……大事ないか?」
「お出迎えが遅くなり、申し訳ございません。でも、アデルバート様……たった一日留守にされていただけではありませんか」
私がそう言って笑うとアデルバート様はリュカラーシュを抱っこしたまま歩みより、私のお腹に手を当てた。
ドレスの上からでも、ふっくらとしてきたのが分かる。
「うむ……。リュカが腹にいた時も心配だったが、やはり子を育むというのはそれなりに負担がかかるであろう?」
アデルバート様は私がリュカラーシュを宿して以降、とても心配性になられた。そして、リュカラーシュが生まれてからはリュカと私を甘やかしてくる。………最恐将軍とは思えないような、幸せそうな顔をなさって。
あれから、冬が長いのは変わりないけれど、極北の公爵領にも四季が巡るようになり、僅かながら作物が収穫できるようになった。
収穫の喜びを噛みしめるたびに、ラーシュが自分の命を捨てて、呪いを解いてくれたのだと、実感する。
それから、リーテの村に移り住んだスネーストルムの生き残りは、少しずつ公爵領の生活に馴染み、今では他の村とも交流があるようだ。
時々アルヴァが、リュカラーシュの様子を見に来る時に、村の様子を聞かせてくれる。
そのアルヴァも、ティストの町でパン屋を営んでいる娘と、恋仲になっているらしい。
恋仲といえば、ドミニクとエブリンは来月挙式予定になっている。ドミニクは私を守れなかったことで護衛騎士を解任されそうになったけれど、アデルバート様を必死に説得し、事なきを得た。
あれは多分……私を護衛したいのではなく、その方がエブリンと一緒にいられる時間が長くなるからではないかしら……。
「立っていると疲れるだろう。リュカ、私は母上を連れて行くから、ドミニクと一緒に部屋に戻りなさい」
「はいっ。でも、稽古の約束は忘れないで下さいね!」
「ああ、分かっている」
子守役がすっかり板についたドミニクを引き連れ、駆けていくリュカラーシュを見つめ、それからアデルバート様は私を抱き上げた。
「……国王陛下は、こうなることを見越していたのだろうか……?」
「……さあ、どうでしょうね?」
アデルバート様がふと呟いた言葉に、私は笑う。
役立たずの聖女の私が最恐将軍に嫁いだら、思いもよらない溺愛と、公爵領の平和が待っているなんて、国王陛下どころか誰も考えもしなかったでしょう。
いつか子供達が大きくなったら、炎の竜を宿した黒焔公爵と春の女神の加護を受けた春の姫の物語を、聞かせてあげましょう。
私はアデルバート様の口付けを受けながら、そんな夢を思い描くのだった。
※※※あとがき※※※
『黒焔公爵と春の姫~役立たず聖女の伯爵令嬢が最恐将軍に嫁いだら~』をお読みいただきありがとうございます!
思いの外長いお話になってしまいましたが、これにて完結となります!
あとは気まぐれに後日談などを数話掲載予定です。
アデルバート様がもろに私の好みの男性で、書いていてとても楽しかったのですが、ドミニクとエブリンをもう少し活躍させたかったなと思います。
………特にドミニク。最終的にただのヘタレです。
余談ですが、作品中の詠唱呪文は基本ロシア語ですが、ロシア語読めない……。
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