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142.勝負の行方

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「おおおっ!」

アデルバート様が、素早い突き技を連続で繰り出した。
ラーシュは防戦一方だけれど、半獣化した影響なのか、アデルバート様の剣が頬を掠めても、かすり傷さえも負わせることができない。
それにラーシュの方が年齢は若い。
アデルバート様は鍛えているとは言っても既に三十。対するラーシュは話を聞いている限りだと、二十三、四位だろう。
このまま長期戦になれば、いくらアデルバート様でも厳しいかもしれない。
私はまた不安になる。

『案ずるな、春の女神の娘よ』

私の心の内を読み取ったかのように、炎の竜が語りかけてきた。

『アデルバートは強い。……先程までは、あやつの中に、迷いがあったのだ』
「迷い……ですか?」
『アデルバートはああ見えて、情に厚くてな。敵だと分かっていても、肉親を手に掛けることを心の奥底で躊躇っておったのだ。……だが、お主を傷つけられたことで、その迷いは断ち切れたようだな』

炎の竜の表情は見えないけれど、まるで独り立ちした我が子を見届けるような口調で炎の竜は言った。

「私の為に、ラーシュを殺す覚悟を決めたということですか?」

アデルバート様が、ラーシュを殺すことを躊躇っていたと言うのは、あの方の性格を考えれば至極尤もだと思う。だからきっと、攻撃を受けても反撃せずにいたのだのだわ。
でも、私の為にラーシュを殺す決意が固まったのは、歓迎は出来なかった。

『いや……それは少し違うな。あやつは、あやつの為に決意したのだろう。自分の、大切な者を守るために』

アデルバート様の大切な者を守る為……。
その言葉を聞いた私は、こんな状況にも関わらず、胸の奥が温かくなったのを感じた、その時だった。

ガキン、という耳障りな金属音が響いた。
私ははっとして、アデルバート様の方を見る。
そこには、刃が刀身の半ばくらいから折れてしまった剣を手にしたラーシュと、握った剣の切先をラーシュの喉元へと突き付けたアデルバート様がいた。

「勝負、ありだな」

息が上がっているのか、肩を揺らしながらアデルバート様が、低い声で宣言する。

「……くっ」

ラーシュは心底悔しそうに、鋭く変化している犬歯を剥き出しにして歯を食いしばると、折れた剣を地面へと放り出した。
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