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139.古の約束

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「炎の竜は………封印されて………」

アルノルト王子がその身に封じた炎の竜が、どうして私に話しかけてきたのか、どうして話ができるのかわからずに私は混乱する。
半獣化したラーシュですらも、その凄まじい威圧感に圧倒されて、その場を動けずにいた。

『アデルバートのそなたを想う心が、我を呼び覚ましたのだ、春の女神の娘よ。………我の力を貸そうではないか』

アデルバート様の体を通して、響いてくるその声は、威厳に満ちているのに、何故か懐かしくて心地よく感じられた。

「何だと………?」

炎の竜の言葉に、驚きの声をあげたのは他でもないアデルバート様だった。

「何故だ?私は、お前を封じたアルノルトの末裔だぞ?何故私達に力を貸す?」

確かに、そのとおりだ。
アデルバート様の祖先、初代グロリオサ公爵であるアルノルト王子はスノーデンの人々を守るために炎の竜を自身に封印した。
………つまり、炎の竜にとってグロリオサ公爵家………黒焔公爵を名乗る者は、自分を封じた憎い相手の子孫であり、封印の器であるはずだ。
確かにラーシュは、それ以上に憎い、スノーデンの子孫だろうけれど、それでも炎の竜が私達に加担する理由はない。

『………どうやらお主たちは、色々思い違いをしているようだな。我は、アルノルトと約束を交わし、アルノルトと、アルノルトの子孫の肉体を借りて眠っていたに過ぎぬ。厳密に言えば、封印ではない』

炎の竜の意外な言葉に、アデルバート様は眉を顰めた。

「眠っていた?」
『そうだ。私はこの地で、とある者を待っていたのだ。………だが、突然やってきたスノーデンに、住処を奪われた。スノーデンの小僧が操る氷狼による傷が思いの外深く、氷魔法により力を失った我は、ゆっくりと休める場所を探していた。・・・そこへやってきたのがアルノルトだったというわけだ。アルノルトはヒトの割には魔力が強く、我の器としてはうってつけだった。肉体を我に貸す代わりに、我の加護を授け、遠い未来に我を目覚めさせる子孫が現れたら、必ず力を貸すという約束を交わした』

公爵領に伝わる御伽話だと聞いた話とは大筋は同じだけれど、少し内容が違うように感じた。

『………アデルバート。お前はアルノルトによく似ている。姿も、魔力も』

炎の竜は、懐かしそうに呟いた。
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