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137.アデルバート様の変調

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「お前が、こんなにボロボロになるなんてな。禁忌を破った甲斐があったってもんだ。………あとは、お前の顔が、絶望の色に染まるのを見られれば、俺は満足だよ」

どくん、と大きく心臓が脈打つのを感じた。
ラーシュの、鋭さを増したアイスブルーの双眸が私を射止めたからだ。
本能的な部分で、危険を察知した私は、咄嗟に逃げなければという意識が働いたけれど、足が震えて動かない。

「シャトレーヌ!」

アデルバート様の叫び声を聞いた、次の瞬間、私の体はラーシュに捕らえられていた。
大きな手に頸部を掴まれ、私の体は宙釣りになる。

「奥方様!」
「シャトレーヌ様!」

ドミニクと、アルヴァが剣を構えるけれど、二人同時でも、敵う相手ではないのは分かり切っている。
ラーシュは、私を殺す気だ。
半獣化したラーシュの、長く鋭い爪が私の喉元に食い込んでいく。

「いっ………」

頬よりも皮膚が柔らかいせいか、痛みは強かった。
私の顔が苦痛に歪むのを、ラーシュは無表情で見つめていた。
その時。ラーシュの体が、揺れた。
一瞬だけラーシュの手の力が緩み、私は地面へと落下する。

「かはっ………!」

締め付けられていた気道に冷たい空気が入り込み、私はむせてしまう。
そんな私の体に、大きく温かい手が触れた。

「アデルバート、さま………」

微かに漏れ出た声に、アデルバート様が微笑んだ。
………でも、いつものアデルバート様ではなかった。
私に触れるその手はいつもどおり優しいのに、アデルバート様の纏う空気は重苦しく、それでいて張り詰めている。
口元は微笑んでいるのに、深紅の双眸には激しい怒りを湛えていた。

「………大丈夫か。危険な目に合わせてすまない………。お前は、ドミニク達と共にこの場を離れろ」

低い声が、私を突き放すようにそう告げた。

「………っ」

私は、返答に詰まった。
このままこの場に留まれば、またアデルバート様の足枷になってしまう。………それは分かっているのに、分かりましたと言えない。アデルバート様がどうにかなってしまうのではないかという不安が、アデルバート様の命令を拒否させる。

「………早く、行けと言っている!」

アデルバート様が叫んだ。それに呼応するかのように、アデルバート様から熱風が迸った。

「………!」

突然の事に、私は腕で顔を覆い、目を瞑った。
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